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第112話

「……強ぇな」


 牛頭の魔物、ミノタウロス。単純な膂力はゴブリンキングと同等かそれ以上、魔力量は自分と同じ位か。


「撒ける?」


「やってみっ、かッ」


「ゴブルァ‼」


 踏み込み、一気に駆け出す。


 戦闘を楽しむ節のある東条だが、自分から死に首を突っ込む様なバカな真似は基本しない。


 面倒臭そうな相手とはなるべく戦いたくないし、やり過ごせるならやり過ごしたい。

 絶対に勝てる相手とだけ戦いたいし、そっちの方が楽で楽しい。それが彼の本音であり性根だ。


 槍の様に飛んで来る電柱が地面に突き刺さるのを横目に、再度跳躍してミノタウロスの拳を躱す。

 木々が吹き飛び、地面が放射状に罅割れた。


 同程度の魔力で殴り合えば、勝敗が分かれるのは単純に肉体性能の差。遺憾ながら、今の東条と言え、それに関しては向こうに軍配が上がる。


 久しぶりに出会った、格上。


「無理っぽい。使うぜ?それともお前がやるか?」


「よろ。じゃあ倒しちゃお」


「はいよ」


 ただしそれは、cell抜きでの話。

 パワーぶっぱの筋肉達磨など、彼にとって手玉以外の何物でもない。


 顕現する漆黒はノエルとリュックも一緒に包み込み、傍から見たらその姿は二足歩行のカメの様にも見える。


 動画ではもう少し後に見せて更なる話題を呼びたかったが、流石特区、そう簡単には進ませてくれない。


「普通に外見える」


「そりゃそうだろ」


 不思議な感覚にキョロキョロするノエル。


 東条の腹にミノタウロスのボディブローが突き刺さった。


「手、おっきくない」


「ありゃ本気モードだ。なんか色々疲れるから普通はやらん」


 ミノタウロスの殴打が彼の顔面を襲う。


「ノエル強かった?」


「いやめっちゃ強かったぜ?あのパンチは一点集中してなかったら普通に死んでた」


「惜しかった」


「惜しかったじゃないわ」


 電柱を引き抜き、ぶん回し殴りまくるミノタウロス。


 しかし全く動かないそれに、遂には鼻息を荒くして一旦攻撃を止めてしまった。


「ブフゥ、ブフゥ――」


「……んじゃ、終わらせるか」


「ん」


 全力を尽くしてくれたミノタウロスに向き直り、彼は大地を蹴り砕いた。


「――っ」


 ノエルはその馬鹿げた加速に目を剥く。風圧やGを感じることはないが、今まで飛んでいた景色が、一瞬線になったのだ。外から見ても凄かったが、体感するのとではまた違う。


 彼女は錯覚的な勢いに呑まれながらも、しっかりとカメラを握った。


「――ッブる「フッ」っボォえッ」


 風を切る電柱を潜って躱し、低姿勢からミノタウロスの腹を蹴り上げる。

 深く突き刺さりめり込む一撃は、その巨体を軽々と天高くに打ち上げた。


 四肢を付き真上に大跳躍。


 同じ高さまで跳んだ東条は、悶えるミノに狙いを定め、


「おうルァッ‼」

「ブ――


 全身を使った回し蹴りが側頭部に炸裂し、そのまま頭蓋を爆散。豪速で吹っ飛ぶ首なしの身体は、眼下の民家を一、二軒貫通して土煙を上げた。




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