「君達、心優しい旅人が食事を恵んでくれるようだ。一度外に出てくれ。早く」
突然の指示に狼狽える避難民だが、抵抗する意思もない彼等は怯えながらも快人についていく。
外に出た総勢二十数人の集団は、自分達の先に四人の若者がいるのを見て安堵した。
普段から素っ気なくも、優しく接してくれるα、β隊の八人は、快人なんかよりもよっぽど信頼できる人達だ。
そんな四人の方に歩き出す集団を確認し、……快人は背を向けた。
「キララ、もう少し下がってくれ」
「わかった」
「……あれ?快人さ「グランドウォール」
立ち去る快人に気付いた一人が名前を呼ぶも、声は届く前に堅牢な土壁に阻まれる。
一瞬にして拠点を囲む様に自分達とを分断した五mの壁に、誰もが唖然とする。
そして脳裏を過る。囮の文字。
「嘘だろ⁉」「お願い助けて!」「子供だけでも!」
大騒ぎになる、寸前、
「落ち着いて下さい!大丈夫ですから!」
快人が壁を張ると同時に開けた穴を通り、中年が声を張り上げた。
「リーダーはこの方を信頼していないだけです!皆さん普通に戻れますので心配しなくて大丈夫です!」
前に出る東条に数人が怯えるが、お構いなしに洗濯機を地面に下ろす。
「こん中に食べ物入ってるんで、好きなだけどうぞ」
そう言って再び下がる東条は、彼等を怖がらせないよう、なるべく距離を取って地べたに腰を下ろした。
大量の食料を配っていく中年と、その周りに広がる食事風景を遠目に見る。
「ガリガリ」
「あぁ。まともに食わせてもらってないんだろうな」
コンビニで聞いていたため、然程驚きはしない。
「可哀想?」
「別に」
東条は大して興味も無い、と空を見上げ、ふわふわと揺蕩う綿雲を眺める。
「何もできないし、何もしないし、何もしようとしてないんだろ?じゃあ戦える人間優先に飯配んの当然だろ」
嘗て自分がいた場所では、皆が一人一人出来ることを探し、互いに尊重し合い助け合っていた。
全力で生きていたからこそ、誰も卑屈にならず、自暴自棄に陥らなかった。
自らの存在意義を確立するというのは、集団の中では必須のスキルだ。それで心持も変わるし、活力も湧いてくる。
ただそれも、上に立つ者によって大きく左右されるのは否めない。
もし自分が最初からあの場にいて、有り得ないがリーダーをしていたら、きっとここと似たような環境になっていたのではなかろうか。
そう考えるとあのメンバーは、とても稀有な人材が集まっていたのかもしれない。
……割れたブローチを空に掲げ、透き通る紫を懐かしんだ。
「同感」
「ははっ、冷たい奴だ」
「何で邪魔者扱いするのに助けた?」
「まったくだな。バカなのか何も考えてないのか、大方力に酔って悦に浸ってるとか、そんなとこだろ」
女でも、金でも、力でも、価値あるものを手に入れると人間は増長しやすい。自分もそれは身に染みている。
「……あ、ハンバーグ」
「……大福じゃね」
雲の形で遊びながら、彼等の食事が終わるのを待った。