目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第126話


 快人は自分の周りに三つの小山を作り、グネグネと丸める。

 新たに三つの不格好な砲弾を作り出した。


「おいおい何のつもりだよ」


 威力のありすぎる挨拶に、不平を漏らす東条。


「人権を無視して勝手に動画を上げる人に、言葉での挨拶は不要かと思ってね」


「おっと」


 地面から押し出され飛来する土塊を、軽いステップで躱す。


「動画見てくれたのか。ご視聴有難うございますぉっと」


 再び躱す東条に、苛立たし気に腕を組む快人。


「ちゃんと許可は取ったぜ?おっさん達に」


「あそこのボスは僕だ。僕の許可なしに勝手が許されるわけないだろ」


「……へー。なんか不満一杯の職場に見えたけど」


「はっ。使えもしない人達を守ってあげてるだけ優しいと思うけどね」


「そりゃ同感だな」


 スタスタと歩く東条は、落ちている巨大リュックを拾いノエルに渡す。


「ちなみに君を連れてきたあの四人、僕への敵意が増してたから追放にしたよ」


「ん?あぁ、そっすか」


 どうだ?、と書かれている顔を不思議に思う。

 なんだろう、怖がらせたいのだろうか。


 東条の薄い反応を見て、快人がせせら笑う。


「ははっ、薄情だな」


「……まず情が湧いてないしな(ボソッ)」


「ね」


 二人にしてみれば見当違いも甚だしいが、否定するのも面倒臭い。


 ノエルがカメラを取り出し、リュックを背負う。


 それを見て快人が眉間に皺を寄せた。


「……懲りないな。僕がここまで来たのは、上げた動画を消させるためだ。そのカメラを下ろせ!」


 飛来する土塊。


 度重なるに、東条の額に青筋が浮かぶ。


「……お前さぁ、さっきからなんのつもりよ?」


「――ッ」


 武装した右手で土塊を平手打ち。打ち返された砲弾は、地面と平行に驀進する。


 快人は咄嗟に土柱を生やし上に打ち上げた。


(……なんだ?怪力か?)


「それさ、普通の人間なら死ぬよな。人に打っちゃダメだろ」


 東条ですら持っている人としての常識を、しかし快人は笑い飛ばす。


「君みたいのにはさ、殺すくらいの恐怖を与えてあげないと分からないんだよ。現に死んでないだろ?」


 さも当然かの様に言い切る彼は、二人をしてどこか気味悪く見えた。


 何かが欠けている。

 ……いや、呑まれている。


「僕に反抗する者は許さない。僕の仲間以外は、全員、『敵』だ‼」


 突然激昂する快人。感情の振れ幅がおかしい。


(……何を当たり前のことを。ヒステリックか?)


 ウザそうに自分を見る二人に、彼の中のストッパーが完全に外れた。


 彼にとっての仲間とは即ち、自分に好意的であり、自分を肯定する者である。


 それ以外は全て敵であり、モンスターも人間も区別が無くなってしまっていた。


「グランドスピア!」


 三本の土槍が彼の近くから延び、二人に迫る。

 難なく躱されたそれは、地面に浅くない穴を穿った。


「だッる……」


 吐き捨てる東条に、ノエルが提案する。


「殺す?」


 純粋な瞳が眩しいくらいに怖い。


「……んー、ぶっ殺してやりたいのも山々だけどよ、流石に殺すのはマズくねーか?――っと。後々使えんだろ」


 飛んで来る攻撃を躱しながら、自惚れたバカの対処を練る。


「……今回はノエルがやる。まさ持ってて」


 横からカメラが投げ渡された。


「殺すのか?」


「いや。似た属性使える人間と戦える。いい機会」


 やはりどこまで行っても、彼女の原動力は、楽しい、面白い、美味しい、なのだ。


 考えるのも面倒臭くなった東条は、まいっか、とノエルに一任した。


「あぁ、まぁ、半殺しくらいに留めてやれよ」


「ん」


 そう言い残し、彼は後方へスタコラサッサと退避した。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?