快人は自分の周りに三つの小山を作り、グネグネと丸める。
新たに三つの不格好な砲弾を作り出した。
「おいおい何のつもりだよ」
威力のありすぎる挨拶に、不平を漏らす東条。
「人権を無視して勝手に動画を上げる人に、言葉での挨拶は不要かと思ってね」
「おっと」
地面から押し出され飛来する土塊を、軽いステップで躱す。
「動画見てくれたのか。ご視聴有難うございますぉっと」
再び躱す東条に、苛立たし気に腕を組む快人。
「ちゃんと許可は取ったぜ?おっさん達に」
「あそこのボスは僕だ。僕の許可なしに勝手が許されるわけないだろ」
「……へー。なんか不満一杯の職場に見えたけど」
「はっ。使えもしない人達を守ってあげてるだけ優しいと思うけどね」
「そりゃ同感だな」
スタスタと歩く東条は、落ちている巨大リュックを拾いノエルに渡す。
「ちなみに君を連れてきたあの四人、僕への敵意が増してたから追放にしたよ」
「ん?あぁ、そっすか」
どうだ?、と書かれている顔を不思議に思う。
なんだろう、怖がらせたいのだろうか。
東条の薄い反応を見て、快人がせせら笑う。
「ははっ、薄情だな」
「……まず情が湧いてないしな(ボソッ)」
「ね」
二人にしてみれば見当違いも甚だしいが、否定するのも面倒臭い。
ノエルがカメラを取り出し、リュックを背負う。
それを見て快人が眉間に皺を寄せた。
「……懲りないな。僕がここまで来たのは、上げた動画を消させるためだ。そのカメラを下ろせ!」
飛来する土塊。
度重なる
「……お前さぁ、さっきからなんのつもりよ?」
「――ッ」
武装した右手で土塊を平手打ち。打ち返された砲弾は、地面と平行に驀進する。
快人は咄嗟に土柱を生やし上に打ち上げた。
(……なんだ?怪力か?)
「それさ、普通の人間なら死ぬよな。人に打っちゃダメだろ」
東条ですら持っている人としての常識を、しかし快人は笑い飛ばす。
「君みたいのにはさ、殺すくらいの恐怖を与えてあげないと分からないんだよ。現に死んでないだろ?」
さも当然かの様に言い切る彼は、二人をしてどこか気味悪く見えた。
何かが欠けている。
……いや、呑まれている。
「僕に反抗する者は許さない。僕の仲間以外は、全員、『敵』だ‼」
突然激昂する快人。感情の振れ幅がおかしい。
(……何を当たり前のことを。ヒステリックか?)
ウザそうに自分を見る二人に、彼の中のストッパーが完全に外れた。
彼にとっての仲間とは即ち、自分に好意的であり、自分を肯定する者である。
それ以外は全て敵であり、モンスターも人間も区別が無くなってしまっていた。
「グランドスピア!」
三本の土槍が彼の近くから延び、二人に迫る。
難なく躱されたそれは、地面に浅くない穴を穿った。
「だッる……」
吐き捨てる東条に、ノエルが提案する。
「殺す?」
純粋な瞳が眩しいくらいに怖い。
「……んー、ぶっ殺してやりたいのも山々だけどよ、流石に殺すのはマズくねーか?――っと。後々使えんだろ」
飛んで来る攻撃を躱しながら、自惚れたバカの対処を練る。
「……今回はノエルがやる。まさ持ってて」
横からカメラが投げ渡された。
「殺すのか?」
「いや。似た属性使える人間と戦える。いい機会」
やはりどこまで行っても、彼女の原動力は、楽しい、面白い、美味しい、なのだ。
考えるのも面倒臭くなった東条は、まいっか、とノエルに一任した。
「あぁ、まぁ、半殺しくらいに留めてやれよ」
「ん」
そう言い残し、彼は後方へスタコラサッサと退避した。