学校の屋上にあるベンチで咲夜、悠、翼の順番で3人は仲良くランチタイムを楽しんでいた。
時々、ご飯粒をこぼす咲夜のことをじっと見ていた悠はそっと取ってあげて
目を見つめ合い、ニコニコしていた。
「はいはい。ごちそうさま。お2人とも熱々で沸騰しちゃうよ。どうすればいい? おでんになればいい? そしたらさ、たまごになるよ、どかんって」
翼は2人がラブラブカップルになっているのがご不満になって、変なことを言い出した。
「翼、ごめんね。ラブラブで。おでんのたまごは『バクダン』っていうから爆発するってこと?」
咲夜が黙々とおにぎりを食べ続ける。お弁当を食べ終わった悠は温かく見守っていた。
「うん、そう。私さ、そろそろ、このランチ会脱退していい? ほぼほぼ、2人のデートになっているから」
「え?! 嘘、そんな、仲間外れにしてるつもりないよ? ほら、話してるじゃない。昨日は映画見てきたって言ってたでしょう?」
「違います!! 映画じゃなくて、ライブです。ほら、話聴いてない。
私のことなんて、興味ないんでしょう!! もういい」
完全なる八つ当たりだ。咲夜があまりにも翼のことを見ていない。琉偉のことだって、こっそりライブを見に行ったのに興味なさそう。でも、琉偉のバンドを見に行っただなんて、言えなかった。
翼は屋上のドアを開けて、階段を駆け降りた。何人かの知らない生徒にすれ違った。少し泣きそうになったのを見られないように急いでいた。
「あれ、翼ちゃんじゃない? どったの?」
階段の踊り場。 3年の教室がある3階だった。トイレから出てきた琉偉が、ズボンに手をつっこんで、通りかかった。
顔をぬっと覗かれた。ライブに行ってからか気にされていることにドキッとする。クシャとした顔を見られたくなくて、ぐいんと顔を振り返った。
「寝不足? 目の下にくまちゃん飼っているね。女の子には夜更かしは大敵よ」
女子を真似するようにくねくねしていた。くすっと面白かった。なんだかその姿を見て、何もかもがどうでも良くなった。我が道を行くと決断した。
「琉偉先輩!!」
「うぇ?! 今、どんだけ〜って真似しようと思ったのに、声かけんなや?」
「えっと、次のライブも絶対行きますから! ワンマンライブじゃなくてもいいのでファンクラブに入らせてください!」
「え? だって、もう入ってるやん」
「まだ入ってないですよ。正式には、チケット買ってないし」
「いや、この間、連絡先交換したっしょ。ライブ情報それに送るから。
大丈夫よ」
「ファンクラブ会費は……」
「んなもん、公式じゃないもの。あるわけないから!! おもろいなぁ」
琉偉は翼の頭をポンポンと撫でて面白がった。後ろを振り向くと琉偉のぴょんとはねた後頭部の寝癖がかっこよく見えた。
パタパタと後ろ向きのまま手を振って、去って行く。翼は3年の群衆の中、
手を振ってくれるなんて贅沢だなと思った。さすがは人気者。周りに黄色い声援が沸き起こっている。
(こんなに急接近して大丈夫だったかな。まぁ、いいか。なんとかなるだろう)
翼は鼻歌を歌いながら、教室に戻った。3年のある女性にハンターのごとく
睨まれるとも知らずに。