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60年後の俺、神の使いになるらしい(※舞台は一万年前)
60年後の俺、神の使いになるらしい(※舞台は一万年前)
星ノ律
SF時間SF
2025年05月17日
公開日
6.2万字
連載中
留年の危機に直面していた俺の前に、自称“60年後の俺”だという老人が現れた。その老人は、留年の危機を回避させる代わり、一つだけ願いを聞いてほしいと言う。その願いとは、「一万年前にタイムリープし、共に魔物を討伐すること」だった。 留年回避という欲に負け、俺たちは古の孤島『ドーバ島』へと時を越える。そこでは、雨乞いの儀式のために生贄にされようとしている、二人の美少女の姿があった。彼女たちの名は、クイナとアトリ。自称“60年後の俺”は、彼女たちの前で誇らしげにこう告げた—— 「我らは、お前たちの望みを叶えるためにやってきた神の使いだ」と。

ep01:60年後の俺

 ヴーーー


 昼食をとっているさなか、テーブルの上のスマホが震えた。一度もログインを欠かしたことがない、ソシャゲからの通知だ。


『緊急速報! 本日13時〜 Skip & Familyコラボ開催!!』


 う、うそだろ……俺が今、一番大好きなアニメとのコラボじゃないか。しかも、事前告知なしのサプライズ開催ときてる。


 普段の俺なら、間違いなく飛び跳ねて喜んでいたはずだ。だが、今日に限っては違う。


 なぜなら俺は今、留年の危機に直面しているのだ。明日の追試を落とせば、留年は確実。土曜、日曜と時間は十分にあったのに、残すは日曜日の午後だけとなっていた。


 にも関わらず……


「い、1ステージだけ……1ステージだけやったら終わるから」


 そう自分に言い聞かせて始めたものの、気付けばスマホを握ったまま、ベッドで寝落ちしていた。


 時刻は、午前4時。


 詰んだ。完全に詰んだ。


 勉強机の上には、すっかり冷めてしまった夕食が置いてある。試験勉強を頑張っているだろうと、母が部屋まで持ってきてくれたものだ。すまん、母さん……



 コン、コン、コン。


 こんな時間にノック……? 母さんだろうか……?


「——まだ起きてるよ、入って」


 そう答えると、見ず知らずの年老いた男が入ってきた。


「だっ、誰だよ、お前!!」


「まっ、待て待て! 大声を出すな! 困ってるだろ? 留年するかもって、困ってるだろ!?」


 その老人は、「シー」っと口に手を当てながらそう言った。



 何故だ……何故、この老人は俺が留年の危機である事を知っているんだ。


 実は母さんにも、今回の試験が追試だとは言っていない。


「お……落ち着いてくれたか……? 君の名前は、椎木しいきゆづる。身長172㎝、体重は……確かこの頃は56㎏ぐらいか。そして、血液型はAB型。17歳の高校2年生。追試は数学で、これを落とすと留年確定。合っているな?」


 俺は無言で頷く事しかできなかった。俺のスペックは何一つ間違っていない。


 それにしても、どんな手を使ってこの部屋に入ってきたのだろうか。危害を与えてくる感じが無いのが、逆に不気味でもある。


「驚いて声も出ないみたいだな……あまり時間が無いから、さっさと話を進めるぞ。俺は君と取引をするためにやってきた。是非、続きも聞いてくれないだろうか」


「わ、分かった……でもその前に、おま……アンタは誰なんだ?」


「俺は……俺は君自身だよ、60年後の椎木弦だ」


 俺は「えええっ!!」と声を上げて、ベッドの上で後ずさった。


 ろ、60年後の俺……?


 老人の足元から頭まで、スクロールして凝視する。


 た、確かに、どことなく俺のような感じはする……身長も同じくらいだし、体つきもよく似ている。特に、切れ長で奥二重の目なんかはそっくりかもしれない……


「——って! こんな話、信じるわけ無いだろ!!」


「だから、大声を出すな! お前の留年を回避するため、わざわざ未来からやってきたんだ! 留年しないよう、お前に勉強する時間を与えてやる。その代わり、俺の要求にも応えてくれればいい」


「……よ……要求? 要求ってどんな……?」


「俺の要求は……俺と一緒に、過去に飛んで欲しいんだ。の救世主として」


 その老人……いや、自称60年後の俺は、不敵な笑みを浮かべてそう言った。



***



「も、もう少し、その……アンタが俺だって言う証拠が欲しい」


「まあ、そう言うだろうと思って、いくつか用意はしてある。とりあえず、今好きな子は、同じクラスの田伏たぶせ結奈ゆな。それと、ブラウザのプライベートモードでブックマークしてるのは——」


「わ、分かった!! 信じる、いや、信じます!!」


 田伏の事を好きだっていうのは、誰にも言ったことが無い。クラスでも地味目な彼女を好きな奴は、クラスでも俺くらいだろう。


 って言うか、プライベートモードのブックマークって、アダルトサイトのブックマークじゃないか……なんてところ突いて来やがる……


「あと、身体でいうとココな。5歳の時に転倒して、割れたガラスで切った場所だ」


 60年後の俺は、右肘に出来た古傷を指さした。確かに、俺も同じ場所に同じ傷がある。


「分かった……とりあえずは信じる……その前に、何て呼んだらいい? アンタってのもちょっと違うし」


「安心しろ、それも考えてきた。俺はお前を、本名のユヅルで呼ぶ。俺の事はゲンと呼んでくれたらいい。お前も経験してるだろうが、『ゲン』とよく呼び間違われるからな。成人してからは面倒で、ゲンと名乗ってるくらいだ」


 確かに……ゲンと呼ばれる事は、俺も何度か同じ経験をしていた。


「じゃ……ゲン。要求の件を詳しく聞かせて欲しい」


 ゲンは「あまり時間は無いが」と言うと、勉強机の椅子に腰を掛けた。


「ユヅルがいるこの時代ではまだ発見されていないが、大昔にドーバ島という島があってな。ムー大陸やアトランティス大陸なんかとは違って、実際に存在した島だ。かれこれ、沈んでしまって9千年になる」


 ムー大陸やアトランティス大陸……確か、伝説上の大陸だっけ……聞いたことくらいはある。


「さっき、『救世主として』って言ったけど、もしかしてその島が沈むのを防ぐとか?」


「ハハハ、まさか! 俺の時代の技術でもそれは無理だ」


 ゲンは声を上げて笑った。


「俺がやりたい事は、ドーバ島で魔物をやっつけて、島の救世主になる事なんだよ。まあ、ちょっとしたアトラクションみたいなもんだな。——それより、そろそろ出発しないといけない。行くか行かないか、どっちだ?」


「ドーバ島の事は、ギリギリ信じていいとして……ま、魔物を信じろってのは、いくらなんでも……」


「……ああ、それは後で説明する。そろそろ、タイムマシンの待機時間が限界なんだ。俺の要求を飲んでくれたら、土曜日の朝に戻してやる。——どうだ?」


 しばし悩んだ後、俺はゲンと共に外に出た。

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