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ep25:対峙

「さっきドラゴンに放った大砲と、城に配備されている大砲は同じ物なのか?」


 ゲンが兵の一人に聞いた。


「ええ、そうです。カイゼ様の軍と同じ物を使っているのは、カナリー村だけだと聞いています。私たちはそれを誇りに思っています」


「そ、そうか。ありがとう」


「——ゲン、大砲がどうかしたの?」


 俺が聞くと、俺たち三人にしか聞こえないほどの小声でゲンは話し始めた。


「さっきの大砲だが、思ったより攻撃力が高くなかったか?」


「はい、私も感じました。大砲が撃ち込まれたとき、ドラゴンは硬化していたように思います。しかし、大砲はドラゴンの腕を吹き飛ばしました。ゲン様と私の攻撃は、硬化していたドラゴンには効かなかったのに……」


「ああ、確かに……」


 アトリの推察に、クイナも相づちを打つ。


「だけどさ、俺たちがドラゴンと戦った時は、武器がレベルアップする前だった。今だったら、どうなるかは分からない」


「まあ、それに関してはユヅルの言う通りだ。ただ、俺たちの武器がさっきの大砲レベルまで上がっていたとしても、グドンには効かないという事だ。もしかしたら…… 俺たちはグドンと戦うにはまだ早いのかもしれない……」


 ゲンは腕組みをしながら歩いている。今から仕切り直しなんて事はあるのだろうか。


「だけどさ……放っておけばカイゼの城にいる奴はやられちゃうって事だろ? カイゼはいいとして、ヨタカの兄貴なんかも城にいるんだよな。とりあえず……とりあえず、一度戦ってみないか?」


「私もクイナに同感です。ダメだったら、一度逃げるっていう選択肢もあります。出来れば、その時にグドンを城から引き離すとか……」


「ああ、クイナとアトリの言うとおりだな……弱気な事を言ってすまん。強さを確かめる意味でも、一度やりあってみよう」


 黙ってはいたが、実は俺もゲンと同じ考えだった。


 まだ、グドンと戦うには早すぎるのではないかと。



***



 カナリー村からカイゼの城までは約4時間。到着する頃には、日が傾き掛けている事だろう。


 俺たちは小規模なバトルを繰り返しながら、城を目指している。出来るだけ大砲は使わせず、俺たちだけで魔物を蹴散らした。


「ミスターゲン……しばらくでカイゼ様の城に着く。我々は正面に大砲を設置し、グドンを迎え撃とうと思っている。そのような布陣で問題ないだろうか……?」


 ダックは道中の戦いを見て、俺たちへの態度をガラリと変えていた。今やもう、ダックはゲンの部下のようでさえある。


「ああ、構わない。当然だが、俺たちには絶対に当たらないように気をつけてくれ。あと、場合によっては撤退もありうる。それは兵にも周知させておいて欲しい」


 ダックは「ハッ!」と答えて、自分の居場所へと戻っていった。


 しばらくでカイゼの城が見えてくるという。初めて見るグドン。噂通りの奴なのだろうか。



***



 城が見えた瞬間、皆が足を止めた。


「——し、城が半壊してるじゃないか!」


 カナリー村の兵たちが悲鳴を上げる。俺たちは元の形を知らなかったが、それでも城の大部分が破壊されているのが分かった。


 それよりも、グドンの大きさだ……


 グドンは城ほどの大きさと聞いていたものの、あくまでそれは例え話だと思っていた。だが、それは少しも大げさでなく、本当に城の大きさと変わらない図体を持っていた。


「ゲ、ゲン……これは想像以上だな……」


 流石のクイナもグドンの大きさに恐れをなしたようだ。


「ミスターゲン、それでは作戦通り兵を配備させる。最初は城に弾を当てないようにと思っていたが、ここまで破壊されていては意味が無い……奴へのダメージを優先させよう」


 怖くて逃げ出すかと思っていたダックだったが、やるべき事はちゃんとやるようだ。


「——ダック、お前はグドンの大きさを知っていたのか?」


「ああ、それはもちろん。ただ、本物を見るのは初めてで驚いてはいる。それにしても、とうとう内部まで侵入したか……カイゼ様が心配だ……」


 そう言ったダックの顔を見る。ダックは、本当にカイゼのことを心配しているようだ。カナリー村の人間は、本当にカイゼを崇拝しているのかもしれない。



***



 俺たちは歩を進め、グドンとの距離を詰めていく。時々、グドンの身体に煙が上がるのが見える。きっと、カイゼの城兵から砲撃を受けているだろう。だが、その砲撃のせいで城を破壊されているのだと思う。


「さっきは『やってみましょう』なんて言ったけど、正直、今震えています……臆病者ですね、私は……」


「アタシだって同じだよ、アトリ。特にアタシなんて、どんな風に攻撃をしたらいいのかさえ浮かんでいない。どうすりゃいいんだ、あんなデカブツ……」


 確かに、クイナの戦闘スタイルは、大型の敵には不向きだと言える。特にここまで大型だと、為す術が無いと言ってもいいのかもしれない。


「クイナは無理をするな。俺たちも出来るだけ、遠距離から攻撃をするよう心がけよう。あと、万が一のために黄色い錠剤は手元に置いておけ」


 俺たち四人が先頭に立ち、グドンに近づいていく。カナリー村の兵は、大砲以外は役に立たないだろう。いや、この状況を見る限り、大砲だって役に立ちそうにない。俺たちの攻撃は少しくらいは通用するのだろうか。そしてそれが通用するとして、倒す事は可能なのだろうか……


 とうとう、ゲンとアトリがグドンへの攻撃可能となる射程圏内に入った。今はまだ、城兵からの砲撃に気を取られているグドンだが、俺たちが攻撃を仕掛けると同時に奴の意識はこちらに向く事だろう。


「——ではアトリ、最初から全力で攻めるぞ。眼の前の大きな石が見えるな? あそこに到達したら攻撃開始だ」


「はい、ゲン様……」


 カナリー村の大砲も配備は完了したようだ。


 あと数歩……


 3歩、2歩、1歩……


 アトリは周りを照らす程の炎魔法を、ゲンは腹に響くほどの特大の砲弾を射出した。

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