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第3話 忙しい日々に爆弾が放り込まれました

教会を貸すと言った途端、目の前の騎士・ノルベルトは柔らかく微笑んだ。

こいつにしたらこの村の知り合いは俺だけなんだから、不安な気持ちは分からんでもない。

まあ、いい。俺の精神的な負担が増えるだけだ……。



チラリと時計に目を向け、俺はヒュッと息を呑んだ。


「やばい!!」

「え?」

「すみません、仕事に行かなければ!!」

「え、あ、俺もてつだ……」


俺は何か言いかけているノルベルトをそのままに急いで支度をした。

部屋を出て、教会に走って向かう。


時刻は午前八時半。

うっかりして八時の鐘を鳴らしそびれてしまった。九時からは青空教室も始まる。教会の掃除もしないと。あ、相談に来る村人を待たせてしまっていたらどうしようーーーー


頭の中でぐるぐるとやるべきことが回る。忙しい。昨日、ろくに今日の仕事の準備ができなかったのも痛い。

走りながら優先順位をつける。

くそ、いつもだったらこんな後手後手に回ることなんかないのに。


教会に着き、鐘を鳴らす。37分の遅刻だ。掃除をしてる時間はないかもしれん。

息をつくのもつかの間、教会の扉からこちらを伺う村人の姿が見えた。村一番のおばあちゃん、マーヤだ。彼女はいつも朝一番に教会に相談に来る。


「神父様、おはようございます」

「おはようございます、マーヤ。すみません、バタバタしちゃって」

「お忙しそうですね。急ぎじゃないから改めますわ。もうすぐ青空教室も始まるでしょう?」

「すみません、助かります。手が空いたら伺いますね」

「いいのよ、いつも大変でしょう。お一人で村の全てを見ているんですもの。昨日も夜は騒がしかったようですし」

「……ええ、昨日、少し……色々ありまして……」


俺の言葉が弱くなっていくのを感じたのか、マーヤは俺を心配そうに見つめる。

いや、うん、ホント色々あったんですよ、と愚痴りたくなるのをこらえる。

「じゃあ、また伺いますわね」とマーヤは会釈をして去った。

俺は笑顔で見送り、すぐに青空教室の準備に取りかかった。




教会近くの広場に大きなブランケットを広げた。

青空教室では、小さい子ども相手に絵本の読み聞かせをする。

ずっと座っていられない子もいるから、椅子じゃなくて地べたに座っている。

絵本をぱらぱらとめくって内容を確認していると子どもたちが母親を連れて歩いてきた。


「「「しんぷさまー!おはようございます!」」」

「おはよう。ミア、エリック、ヨハン」


後ろから母親たちが「今日もよろしくお願いします」と会釈をする。

俺が笑顔で受けると、母親の一人が声を潜めて尋ねた。


「昨日の夜、騒がしかったようですが大丈夫ですか?」

「……ええ、大丈夫ですよ」

「…………それと、あのお方、ご存じだったりしますか?」


母親がちらりと視線を向けた先には、教会からこちらを伺うノルベルトの姿があった。


「!!!」

「このあたりで見かけない男性ですし……」

「えっ、とぉ!あとでゆっくり説明します!落ち着いたら村全体に説明しますんで!とりあえず!大丈夫なヤツですから安心してくださいませ!!」


なんでここにいんだよ!部屋で待ってろよ!

という叫びを必死にこらえて、俺はノルベルトの所に走った。



「ノルベルト様、どうされました?何か問題でも?」

「いや、……何か手伝えないかと思って」

「あらあら、まあまあ。いいんですよお気になさらないでください全然大丈夫ですお部屋で待っていてはいかがですか??」


焦りのせいか早口になってしまった。見知らぬ男が、しかもこんなゴツい男が村に入ってきたとなると村人は不安になっただろう。

この忙しいときに何してくれんだよ、という気持ちを必死でこらえ、笑顔を浮かべる。

すると、子どもの一人、やんちゃなヨハンがこちらに走ってきた。


「しんぷさま!このひと、だれ?」

「えっ…………と……」


言葉に詰まっていると、ヨハンはノルベルトに視線を向けながら「あたらしいせんせい?」と尋ねた。

するとノルベルトはすかさず「ああ、そうだ」と答える。


「ノルベルト様!?」

「アベルがひとりで忙しそうだから手伝いにきた。ノルベルトという。よろしく頼む」

「ちょっと!話を勝手に進めないでくださいよ!」


ノルベルトは「なんでも頼ってくれ」と笑顔を向ける。

……なんでコイツこんなにマイペースなんだ。


足元にいたヨハンは目をキラキラ輝かせ、「ノルベルトせんせー!」とはしゃいだ。

ミアとエリックも警戒を解いたのか、こちらに駆け寄ってきてわいわいと騒ぎ出す。


…………もう!


「わかりました!じゃあ、今日の青空教室始めますから!みんな座って!」

「はーい!」

「ノルベルト様も!そこ座って!手伝うって言うならちゃんと手伝ってもらいますからね!」


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