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chrono-04:直感力は、スパーク!これはマジハマリランキング第四位の巻

 一斉に名乗り終えてからは、七名全員が意味不明のニヤリ笑みを全く同じ顔に全く同じように浮かばせながらこちらの反応を待っているという通常でもVRでもあまり体験しないような局面に相対させられている僕……何らかの応対を返さないかぎり先には進ませないよ的な、そんな多分に間違っているだろう感に満ちた剛直な空気が……この紺色空間に充満しておる……思わず口をついて出たのは、


「あ、僕は、『来野アシタカ』だけど」


 そんな極めてフラットな自己紹介の言葉であったわけで。しかしてそんなお約束をカマした、いやそう強制された体の僕の眼前で、思い思いに浮遊している七人から同時に右人差し指を左右に振りつつチッチッチッチという連続的舌打ちをされるという往年のハリウッドも顔を赤らめそうなリアクトをカマされながら、うぅん明日もあるし早いとこもっと深い眠りノンレムに落ち込まないかな……と真顔で待ちの浮遊をするばかりの僕がいるけれど。と、


「ふっ、僕らは皆そうさ。その上で『分割された人格』、それが僕ら『意識体』ってことになる」


 いちばん話が分かりそうなファイブからですら、そんなワケわからない言葉が紡ぎ出されてくることに初手から非常に不安を煽られるのだけれど。でも取り敢えず、


「ええと……『多重人格』ってカテでくくっちゃって、えーと、いいんだよね……?」


 その単語を発しといた方が諸々話は早そうだったのでそう言い放ってしまったものの、そう単純なことじゃあないよね、との思いは相変わらず自分の中にある。はたして。


「大枠はそう。だが根底は『ひとり』。ひとりの『来野アシタカ』なんだ」

「そこに記憶の断片と、能力の断片を持った『三十一の人格』が存在するのやで」

「けど七割がたは『大元の人格』や。記憶も七割がた、全員で共有しとる」

「『一パーセントの記憶』と『三パーセントの潜在能力』を有した単一個体、それが我ら『サーティワンズ』。しかしてなぜ我らが生まれた理由は分からぬ。だが厳然たる事実でもある」


 今度は流れるようにそうのたまわれてくるけど……どういうこと? じゃあ「僕」は誰だっていうの。全部の人格の「三十一分の一」って……そういうこと? う……でも図らずも納得させられる部分はあった。「七割の記憶」。ちょうどそのくらいに体感していた……いつもの、僕の日常で持続しているのって。そして一晩寝ると記憶の一部が失われる……いや、人格が入れ替わって「一パーセント」ずつ当てがわれた記憶の断片もシフトする……? ええ? 何か、急激に「納得」という淡い概念が三十人分もの僕の姿に寄り固まって、たった一人の僕向けてよいやさよいやさと「妥協」という名の土俵際まで一気にがぶり寄ろうとしてくるかのようだよちょっと待ってよ……


「もしかして、三十一分割って、『日替わり』で人格が代わっていくとか、そんな奇想天外なことだったりして、はは、まさかねぇ、流石にそんな荒唐無稽ありえないかぁ……」


 嫌な予感を半笑いでいなそうとした僕の目の前に、突き出される「それだ」の指七本。嗚呼……。


「理解が早い、流石【成長力】を司る、最強の一角なだけのことはある」


 そのまま人差し指を自分の額のとこまで持っていく無駄とも思われる仕草をしつつ、ファイブが満足げな笑みでそう意味不明に僕を称えてくるけど待って待って。


「その『能力』っていうのはどんなんなの? 今日のあの事故をやり過ごしたアレ? なん……」


 ワケが分からないなりにも理解をしようと努める僕だけれど、まあ落ち着いてとばかりにファイブは僕に両掌を向けて余裕の笑みを浮かべたままだ。それにしても何でこうまで逐一芝居がかった所作なの。


「……キミは不条理と思ったことは無かったかい? 妹アスナの溢れ出でる才能・能力に比べ、双子の兄である自分の余りにも枯れて色の抜けきった佇まいを」


 自分に自分を枯山水が如くに評されるなんて思ってもいなかったけれど、うん、まあ確かに。それは結構前から存分に細胞のひとつひとつでしみじみ感じさせられていたよ。そして、


「……六歳の夏、キミ……いや『僕ら』は近場の公園のジャングルジムから落下して後頭部を結構な勢いで打ち付けたよね……」


 そんな過去の記憶。いやもちろん覚えているけど。大事には至らずコブ出来ただけだったんでお医者にも行かなかったっけ。そういや小ちゃかった頃は結構アグレッシブだったよな僕……いつも遊び友達の中心にいて、明日奈も僕のあとを追いかけてくっつき付いてきてたっけ。それは今もまあそうかもだけど、ん? それだけじゃないな、他の子にも慕われていたような、そんな甘い記憶もほんのり残っている。いや、


「え? その時にこうなったって、え? そう言いたいの? だいぶ時間差があると……」


 思うけど。僕の呆けたような質問に、またしても意味ありげな笑みで指を差されるけど。リアクションも何か古いな大丈夫かな……


「そうなった理由も根拠もまだ謎なんだけどね。『そのこと』には気付いたんだよ、つい三か月ほど前に」


 気付いた……そんな唐突に。うーん、なにかきっかけでもあったっていうの? 「三か月ほど前」って言うと、去年の十二月中ごろあたりか。期末テスト、終業式、もう少し行ってクリスマス? どれも記憶にはもちろんあるけれど、当然の如く僕にとっては無風のイベントでしか無いわけで、特に何があったわけじゃあ勿論ないけれどね。あれ? 何か睡眠の底まで落ちかけてるのに頬に伝わる熱い滴の感触が……


「意識の解放、それが起こっただろう? それは全員認識しているし、何ならそれ以降も毎日感じているはずだよ」


 ファイブは相変わらず達観したというか、イニシアチブやらマウントやらを取ろうとしているのか、そんなあやふやな事を言って戸惑う僕をからかうかのような言葉を紡ぎ続けているけど。何だよ「意識の解放」って。とかワケ分からな過ぎていい加減イラついてきた僕に、


「まあ端的に言うと『精通』、もっと言うと初めての『射精』だけど」


 浴びせかけられる白い波濤。いやいやいやいや? 来たよこれ。何を言い出すかと思ったら、いやぁそんなこと……いや、でも嘘なら嘘でもっともっともらしいのをつけるはずであろうからこれは逆説的に真なの? いやうぅぅぅん、どのみち度し難ぇぇぇえ……


「現に起こったものは仕方ない。そこは認めるしかないよサーティーン。もっともそのXデイは『十二月十四日』。だから、『キミ』が認知するのは最も遅い翌『一月十三日』だったわけだけどね」


 やいやいやいやい、全ッ然、話の逐一が分からないのだ↑が→。でもひょっとすると……


「え? 日替わりなのはそうなんだろうけど、日にちに律儀に即してるとでも言うの? 三十一人が? でも『西向く士二四六九±』の月は? 『三十一のヒト』なんて年七回しか出番ないじゃないの」


 先ほどから浮世離れした思考でもたらされてくるのは、そんな些末なことばかりなのだけれど。それに対しても指をぐいと指し突きつけられた。ええ……


 そう言えば今日は十三日の金曜日。サーティーンな僕が、司る日だったとでも……言うのだろうか……何か……すべてが……分からなくなってきた。悪い夢、という一点にすがって流したい僕がいるのだけれど。と言うかその「僕」とはいったい誰だ? 何だ?


 分からない……ときは寝るに限る……


 またしても僕が思考放棄の先の安寧楽園を目指し、酩酊千鳥足の一歩を踏み出そうとした、


 刹那、だった……


「フアーハッハッハッハ、フアーハッハッハッハァッ!! 何とも最後に残った『十三殿』はやはりのおみそだったようだなぁーハッハッハッハ!! こいつはこちらに支配権を奪い取ると同時に、キサマら全てをぉォォォッ!! 我が軍門に下らせること、それも無きにしもあらずんば、ヒトを制すッ!! ファファファファファファファファファッ!!」


 とんでもない混沌がカオスを背負いてやって来おった。いきなり空間に現れ出でた真っ青な全身タイツに身を包んだその人物は、まあ外観は僕であるのだけれど、その表情筋が不随意に収縮しない限り醸せないくらいにイキれ引き攣れた顔面は、自分でも見た事の無いほどのまるで喜怒哀楽のどれかに全振りしたような、あるいはそのどれでも無いのか、理性の一ミリも漂わせてこない娑婆ならば捕縛待ったなしの風体であり、さらに僕こんな腹からのいい声出せるんだと困惑させるくらいのそれはいい低音にて、他者に聞かせるためだけの甲高い笑い声を放ちまくっているという何だもうこれェ……


 胸に書かれた数字は【14】。フォーティーン。僕と並びの数だけれど、さりとて友好感は微塵も無く、あるのはただただ純度の高い敵意だけなのであった……


 どうなるのッ!?


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