『いいから、早く行けよ』
『大丈夫だって、これで最後にしてやっから、な?』
『あんま俺らのこと、待たせない方がいいよ。だからさ、さっさと……』
クラスメートたちに囲まれ、半ば脅されるように、そう言われた。
高校の裏山にある、古びた祠のことだった。
『なに?嫌なの?』
「………………。」
何も言わず、僕は一人でその祠へと向かう。
裏門から出るとき、花壇の奥に大きめのスコップが置いてあるのが見えた。
僕はそれを手に取り、裏山へと急ぐ。
両手でスコップを抱え、息を切らしながら木々の間を進む。
薄暗い木漏れ日が、スコップの刃に不気味な光を反射させる。
祠が見えてきた。
両手でスコップを握りしめ、覚悟を決めて古びたソレの前に立つ。
あの時。
どうして、首を横に振ることができなかったのだろう。
言われるがままに壊してしまったことを、今、僕は深く、後悔している。
――――――
――――――――
時計の針の音が、やけに大きく耳に響いた。
静寂が深まるほど、その音が際立つ。
何時間も狭いロッカーの中で、直立不動のままでいた。
頭がおかしくなりそうだった。
息を潜めて、扉の隙間からそっと教室を覗き込む。
放課後の薄暗い教室。
夕陽が差し込む窓辺は、赤く染まっている。
椅子と机が無造作に倒れ、深いくぼみや引っかき傷が残されていた。
泥を被った教科書が数冊、ページを開いたまま重なり合って床に落ちている。
ちだらだ
それはどこからともなく聞こえてくる、かすかな呟きのようなもの。
追われたから分かる。
あれは人の声に限りなく近い、足音。
背筋が凍り付く。
まだ、いる。
心臓が鼓動を早めるように、激しく脈打つ。
汗が、冷たい雫となって背中を伝う。
もう逃げ場がない。
だら
再び聞こえてきた声に、体が震える。
教室の隅。
暗い影の中で、何かが蠢いていた。
ちだら だ ち
咄嗟に扉を閉じる。
見られた。
ちだらだちだらだちだらだちだらだちだらだち
近づいてくる。
目を閉じ、両手で耳をふさぎ、現実から目を背けようとする。
しかし、その声は、まるで心の奥底を掻きむしるように、いつまでも耳に残り続けた。
ち
血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺陀血堕螺
扉に、何本もの爪が食い込み、ロッカーが激しく揺れ動く。
無理矢理こじ開けようとしている。
もうだめだ。
音が聞こえなくなった。
恐る恐る、顔を上げる。
扉に開いた穴から、 が、こちらを覗いていた。
それは―――。
なまなましい、あかいろの、 。