これは私が調べ上げた真実。
そこに私情は挟んでいない。
そう自分に言い聞かせているけど、心のどこかでざわめくものがある。
―――あの事件から数日が経った。
3年B組の教室で起きた出来事を思い出すたび、胸の奥で冷たいものが蠢く。
事件の直後。
数人の教師たちが騒ぎを聞きつけて、教室に飛び込んできた。
割れた蛍光灯の破片が床に散らばり、腐った花瓶の水と獅子堂の糞尿の臭いが混ざった空気の中、生徒たちは恐怖と興奮で口々に叫んでいた。
『獅子堂が突然倒れた』
『伊藤がやった』
『アイツは化物だったんだ』
――と。
叫び声が飛び交う中、伊藤君は静かに席に座っていた。
手に持った花瓶をそっと机に戻し、視線を床に落としていた。
嵐の中心にいるのに、どこか別の場所にいるような、そんな顔で。
教師たちは混乱を抑えようと必死だった。
獅子堂は意識を失ったまま担架で運ばれ、救急病院へ。
残った生徒たちは別室で事情を聞かれた。
どの生徒も伊藤君の事を訴えていたが、教師たちはそんな話を鼻で笑った。
『化物? バカバカしい。いい加減にしろ』って。
結局、事態は『伊藤と獅子堂が喧嘩し、獅子堂が重傷を負った』で片付けられた。
証拠は曖昧で、目撃者の話もバラバラだったけど、獅子堂が倒れた事実は動かせず、伊藤君は傷害を理由に謹慎処分を受けた。
今も彼は学校にいない。
謹慎がいつまで続くのか、誰も教えてくれない。
あの教室の異様な空気、獅子堂の裏返った目、そして私の頭に響いた「血堕螺陀」という音――それらは全部、教師たちの『喧嘩』という言葉で塗り潰されたのだ。
…………。
獅子堂はその後、学校に姿を見せなくなった。
噂では、精神的なショックで入院したとか、家族ごとどこかへ引っ越したとか。
誰も真相を知らないし、誰も彼の話をしなくなった。
まるで、獅子堂という存在が、教室の記憶から消されたみたいに。
ただ、あの事件は伊藤君を
いじめっ子たちは静かになり、机の落書きも消えた。
でも、彼が学校にいない今も、彼の名前は学校中に広がっている。
廊下で囁く声、好奇心むき出しの視線。
彼の不在が、かえってその存在感を大きくしている。
私の霊感が告げている。
あの日、伊藤君の内に何かがいると確信した。
濃い影、揺れる空気、そして時折聞こえる『血堕螺陀』という囁き。
あれは幻聴じゃない。
危険だと分かってる、でも――私は正体を突き止めないといけない。
だから、こうやってメッセージを残している。
私に何かあったとき、誰かが気づいてくれるように。
正直、今の伊藤君に近づくのは怖い。
でも、放っておけない。
だから私は今、
彼の家の前にいる。