青紫の不思議な髪色をした、片目隠しの少女。
いや、自分のことをあれやそれやと棚に上げても、
ただ恥ずかしいだけなのでやめておく。
自分は、妖怪が好きだ。
いや、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
自分は、今後どう頑張っても人間には成れない。
そうだ。
私は
正しくは、妖怪のなり損ない、だが。
妖怪、とは。
人間には成し得ない、超常現象を起こすもの。
妖怪は、妖怪であり、
人間ではない。
人間にはなれない。
かといって別に、妖怪だから人と関われないという訳ではない。
妖怪でも人でも、人と関わるのは結局嫌な人が多いだろうし。
だが、私には仲良しの友達がいる。
しかも4人。
一人目は、中学の時からずっと仲良くしている、
薄い蒼のサラサラロング髪に、
桃色の瞳をした、財閥の娘、姫野アリス。
二人目は、高校で仲良くなった、
陽キャのギャル。
目を引く金髪に、緑色の瞳をした、山野ギャル美。
三人目は、ギャル美と同じく、高校で仲良くなった、
黒髪に、藍色にも赤色にも見える瞳をした少女、みり。
現在は、諸事情により休学中である。
四人目は、今年仲良くなったばかりの、
薄い赤紫の髪の毛をした、翡翠色の瞳が特徴的な、
顔立ちの整った男子、
四人しか友達がいないというわけではなく、
主によく話すのがこの四人っていうだけだ。
…別に、友達の有無は物語に関係ない、つまり問題ない。
授業終わりの休憩中なんて、読書をしているだけで
どうせ時間はすぎていくのだから。
そう思っていた矢先。
仲のいい友達の一人、姫野が話しかけてきた。
「こんにちは、ねここさん。授業終わりですけど、御機嫌いかが?」
「…強いていうなら、眠い。」
姫野以外もそうだが、私の周りにはどうも顔の整った人が集まるらしい。
別に、自分の顔に自身がないわけではないが、
正直美男美女の顔が常に近くにあるみたいで、
なんか、ヤだ。
「分かる〜、授業終わりってマジ眠いよね〜」
いつの間に現れたのか、姫野の肩にのっかかりながら、
ギャル美が登場してきた。
「特に数学のヨモセンの授業終わりとかはヤバイよね〜」
ヨモセン、とは米本先生の略である。
別にそのまま言えばいいじゃん、と思うのだが、
おそらくダメなのだろう。
なんにせよ、自分には理解できないが。
「おい、ギャル美。いつも姫野に迷惑かけんなって言ってんだろ?」
と。
薄い赤紫の髪の毛に、
翡翠色の瞳をした、四人目の友達、柊也が現れた。
「別に迷惑かけてないですぅ〜。そっちこそオカン卒業すればぁ?」
「は?」
ああ、またいつもの喧嘩。
というかどんぐりの背比べ?
というか…
「二人共そろそろチャイムなるけど座らなくて大丈夫?」
すると、私の前の席に座っている、
陰キャとも陽キャとも仲良くなれる、中間の男子、
「うわ、マジじゃん!扇っち、せんきゅ!」
「うわ、やべぇ!ごめん扇、ありがとな!」
斉唱のようにキレイに重なる二人の声に、
やれやれと肩をすくめながら、
扇くんはこちらを向いた。
「月見さん、大丈夫?あの2バカ相手、大変だねぇ」
「…、別に。ありがと。」
扇くんと近くの席になってからよく話すようになったが、
扇くんはかなり中性的な見た目をしている。
一応男子なのだが、ひと目では男と見抜けないだろう。
ヘアピンとかめっちゃつけてるし。
「ところで月見さん知ってる?
狐の妖怪が住んでるんだって〜」
「狐?」
「うん。九尾の狐に見えた人もいれば、ただの狐に見えた人もいるんだって。」
「ふーん、そっか。」
私は、その古民家に住んでいる妖怪のことを知っている。
その妖怪は、妖怪の貴族の一人。
その妖怪は、妖狐の王族の一人。
その妖怪は、人間界に悪名を轟かせた一人。
親につけられた名はとっくの昔に捨てているが、
今もなお、人間界に留まり続けている。
と。
教室のドアがあいて、
教科担任が入ってくる。
「よ〜し、お前ら授業の準備してるな〜?」
「せんせー、宿題忘れました〜」
「おい山野、またかお前。授業の準備より先に提出物の準備をしなさい」
ちょっと適当な、ぶっきらぼうなこの男教師は、
山田先生は生徒からの人気がかなり高い。
なぜなら先生がめんどくさがって、授業が早く終わるからだ。
それは果たして先生として大丈夫なのだろうか…
***
「ただいま…」
独り言並の小さな声でも、彼女の耳には入ったらしく、
「おかえり〜!!」
と対称的に大きな声で返された。
茶色と金色のグラデーションを縛る
一対の長いみつあみに、
夕焼け色の瞳をした、
自分と同じぐらいに見える、その少女には。
ゆらゆら、と揺らめく狐の尾と、耳が生えていた。