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聖夜の告白
聖夜の告白
とんこつ毬藻
BL現代BL
2025年05月21日
公開日
2,251字
完結済
 修吾と俊哉はいつも一緒だった。  大学二年生のクリスマス。  二人はクリスマスを一緒に過ごす事になるのだが……。  季節外れのクリスマス短編ですが、BLジャンルが盛り上がってるみたいでしたので、  ご挨拶も兼ねての投稿になります。(普段は異世界恋愛多めですが、こちらは現代BLになります)  よろしくお願いします。

君への贈り物を

「おぃ、トシ」

「なんだいシュウ」


「どうして俺はお前なんかと聖夜にご馳走並べて二人で居るんだ?」

「どうしてって……僕とシュウの仲だろ? いいじゃん、楽しいし」


 テーブルにはスーパーで半額になっていたローストチキンと、さっき注文した宅配ピザ。そして、缶チューハイ。何かがおかしい。クリスマスは恋人同士過ごすものじゃないのか? まぁ、どうせ今年もクリスマス暇なんだろって、俊哉からの誘いに乗った俺も悪いんだが。


「シュウ、ピザが冷めないうちに乾杯しようよ。ほら、メリークリスマス!」

「あーあ。おけおけ。メリクリ」


 俺はハイボール、あまりお酒が飲めないトシはほろよいの缶チューハイで乾杯する。

 トシは好きなシーフードピザを口に含み、ぷりぷりの海老を堪能している。俺は焼肉ピザ。『シュウは肉が好きだろう?』ってトシがチョイスしたらしい。言い当てられるのは悔しいが、俺は焼肉ピザが好きだ。嗚呼、大好物さ。


 おかしい。何かがおかしい。 


 大学に入ったら俺は、彼女を作って一人暮らし生活を満喫する筈だった。


 東京で始まった夢の大学生活。しかし、田舎から上京して来た俺にとって、大都会での生活は難易度が高く、気がつくと、同じ大学に合格し、同じく田舎から上京して来た同級生の俊哉としやと一緒に過ごす事が多くなっていた。俺はコンビニバイト。俊哉は近所のカフェでアルバイトを始めたが、互いに浮いた話もなく、気づけば大学二年生の冬を迎えていた。



「くっそーー、今年こそ彼女作るって決めてたのによ」

「ふふふ。シュウ、それいっつも言ってるじゃん! バイト先のコンビニに新しく入った後輩はどうなったん?」


「嗚呼、あの子か。人懐っこい可愛い子だなとは思ったが、あの子は魔性の女だよ。俺はああいう可愛い子には騙されないと決めたんだ」

「あーね。高校の時、水谷さんに揶揄われたのをまだ気にしてるんか」


 流石、昔から俺の事をよく知っている俊哉だ。俺の意図を言い当てる。高校時代、同じクラスの男子の間でマドンナと言われていた水谷佳織みずたにかおり。俺は高校時代、彼女に告白された過去を持つ。だが、それは、女子グループの間で行われたゲームの一環だったのだ。


 見事に騙された俺は以来、彼女を作りたいと思いつつも、女が考えている事に裏があると思うようになったのだ。


「そーいうお前はどうなんだよ、トシ。こないだ学部の女子と仲良く話してたじゃねーか」

「嗚呼、恵美さんの事? あの子は……別になんでもないよ」


 峯岸恵美みねぎしめぐみは長い黒髪が特徴の快活な女子だ。たまたま一緒だった講座で席が同じだった際に話し掛けられたのがきっかけらしい。


 シュウは黙ってテーブルの上にあったクリスマスチキンを口にする。ふーん、そうか。そういうところは分かりやすいよな。


「なんだよ、彼女と何かあったのかよ」

「何でもないよ」


「なんだよ、言ってみろって!」

「何でもないって!」


「お、おいトシ!」


 酒が弱いクセに残っていた缶チューハイを一気飲みする俊哉。いつも冷静な俊哉がここまで語気を強める事は珍しい。空になった缶をテーブルに置き、ひと呼吸置いた俊哉は、黙って席を立つ。そのままおもむろに隣の部屋から何かの包みを持って来て、俺の前に差し出す。


「ほら、プレゼント」

「は?」

「クリスマスプレゼントだよ、シュウに」


 黙って渡された包みを開ける俺。中には暖かそうなマフラー。風が冷たい日は首筋が寒いよなって最近俊哉に話していた事を思い出す。 


「あ、ありがとな」


 不意を突かれた俺は、何かはぐらかされたような気分になる。何でクリスマスによりにもよって俺にプレゼントなんだよ? 俺が脳内で考えを巡らせていると、ゆっくり息を吐いた俊哉は俺にこう呟く。


「見られたんだ」

「え?」


「恵美さんにさ。このプレゼントをこないだ買っているところを目撃されてね。問い詰められたよ、誰へのクリスマスプレゼントって?」

「いや、普通に友達へって説明したらよかっただろ?」


 そのまま俊哉は恵美に『クリスマスその子と一緒に過ごすのか?』『その子が好きなの?』と質問攻めにあったらしい。そして、『クリスマス私と一緒に過ごさない』と聞かれ、トシはこう答えたらしい。


 ――いや、クリスマスは好きな人と一緒に過ごす予定だから。ごめん


と。


「えええええ? 何だって!? お前、あんなに美人の女の子からの誘い断ったのか? リア充になれるチャンスだったのにか? 好きな人っておいおい、好きな人じゃなくて俺と過ごしてんじゃんか! なんだよ、その悪い冗談……」


 気づくと俺は押し倒されていた。俊哉の瞳が溢れる感情で潤んでいる。


「お前なんだよ。シュウ! 彼女なんてどうでもいい。どれだけずっと一緒に居たと思っているんだ! お前の事、ずっと見て来たんだ。お前の事なら何でも知ってる。僕の好きな人は……高柳修吾たかやなぎしゅうご、お前なんだよ!」

「トシ……お前……」


 いつもなら、また悪い冗談だろうってはぐらかしていた。中学、高校、いつも馬鹿やって、彼女欲しいって話をして、いつも隣にはトシが居た。大学俺が上京したいって言った時も、受験の日も、合格発表も……。


「冗談じゃ……ねーんだな」

「こんなときに冗談言うと思う?」


 このとき頬を赤くして、雫を溜めて笑ったトシの表情が、どんな女の子よりも可愛く見えた。俊哉に押し倒された状態のまま、俺は右頬を部屋のカーペットへつけ、視線を逸らしたまま観念する。


「好きにしろ……」

「シュウ、大好き!」


 くそっ……男の癖にどうしてこんなに可愛いんだよ。

 あ、こいつのために買ったクリスマスプレゼント渡すタイミング逃しちまったな。まぁ、いいか。

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