「熱いコーヒーが飲みたい」
「飲めばいいじゃん」
なんて、当然のようにしれっと言うのは一緒に住んでいる相方の幼なじみだ。
「飲めるならとっくに飲んでんだっつの」
「牛乳入れたらいいだろ?」
「薄まるんだよぉ~」
「は?冷めるじゃなくて?」
「いや、温度が下がるのもそうなんだけどさぁ⋯」
コトリと小さな音を立てて目の前に置かれたのは、ミルクで薄められた熱々“だった”コーヒーだ。
「薄まってるぅ⋯」
「いや、牛乳なんだから薄まってねぇって。つかそもそもお前ブラック飲めねぇだろ」
「味はな!確かにブラック飲めねぇけど!」
「だったらこれで正解だろ。猫舌のお前でも飲める温度、そんで子供舌のお前でも飲める味」
「子供舌ぁ!?」
なんだと、と文句を言おうと睨み付けるが、そんな俺の様子なんか無視して俺の飲みたかった熱々のブラックコーヒーを片手にこの少し生意気な幼なじみが隣に座る。
「うぁ、いい匂い⋯」
思わず溢すようにそう呟くと、チラリとこっちを見たと思ったらこれ見よがしに一気に飲み干して。
「⋯あっ、おまっ、俺の絶対出来ないこ⋯⋯っ、ん、んんっ!?」
一瞬何が起きたのかわからず、ただ視界いっぱいに広がる幼なじみの顔をただ見ていた。
そして一拍置き、火傷しそうなほど熱い舌が自身の舌を絡めとるように口内に入れられている事をその熱と、“薄まっていない”強いコーヒーの香りで気付かされる。
反射的に腕を突っ張って無理やり剥がそうとし⋯
想像よりもアッサリと幼なじみはコーヒーの香りだけを残し離れて。
「⋯な、え、は⋯?」
「薄まってなかったろ?」
「え⋯あ、まぁ、薄まってはなかった⋯けど、え、え?」
「そうか、良かったな」
“よ、良かったな⋯⋯!?”
それは確かに求めていた“薄まっていない”香りだったし、猫舌の俺ではなかなか感じられないものではあったのだけれども。
「お、おま⋯っ、お前今⋯」
「おかわりいるか?」
「ふへっ!?」
「って、あぁ、お前まだ飲んでねぇのか」
「あ、おかわりってそっちの⋯?」
そっちの、なんて聞いてすぐにハッとし顔に熱が集まるのを感じる。
“そっちの、ってなんだよ!他にどのコーヒーのおかわりがあるんだっつの!?”
「⋯へぇ、お前が望むなら“どっちの”でも俺はいいけど」
「いらんわ!!」
怒鳴るように叫んだ俺は、赤くなった顔を隠すようにくるりと背を向けてキッチンに向かった。
「熱々のブラックコーヒーをご希望で?」
「砂糖を取りに来たんだよッ」
「ふぅん、残念」
「な⋯っ!?」
まだ僅かに残る“薄まってない”その香りをふわりと感じ、無意識にくしゃりと髪を搔き上げた。
くすぐっているのは鼻なのか、それともこの胸なのかはまだわからないまま──⋯⋯