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インステニート 規格外のニート少女は、異世界転生者と共に〜
インステニート 規格外のニート少女は、異世界転生者と共に〜
八ッ坂千鶴
ゲームVRゲーム
2025年05月22日
公開日
1.6万字
連載中
【表紙イラストの理由はあらすじ後半にあり!】 日々ゲーム審査をしている主人公の巣籠明理(すごもり あかり)は今日も仕事をしていた。 彼女は正式テスターではなく、アルバイト感覚で作業を行う。この世界で発売されているゲームのほとんどが彼女が審査したゲームだ。 ゲームのレイティングや、ゲーム性の確認。既存ゲームとの比較。発売前時点での不具合。サービス終了危機のゲームの人気底上げ。 どんな難易度のゲームであっても、即日で終わらせるくらいゲームが得意な彼女は、世間から『アンゲーマー』と呼ばれていた。 しかし、彼女の生活を見れば、数ヶ月食事を取らない、毒が効かない。大怪我を負っても、骨折しても数日で元通り。致命傷だとしても生還してしまう特殊な体質だった。 そんな彼女はゲーム会社からの依頼を受け、サービス終了危機のRPG〝バーチャルワンダーランド〟にログインする。 そこで、兄や高校の友達。突然加入することになったギルドのメンバー。そして何故か、〝味方ドラゴン〟!? 現実世界での異能とゲーム内での天才である少女が、今日もお気に入りの男性アバターで奮闘する!

第1章

第1話

 いつものように、起きる。いつものように、歯を磨く。いつものように、服を着替える。そんないつもの日常は、私の中ではほんの数秒の出来事のようだ。


 食べ物の袋やゲームの外装フィルム。散らかった服。新品の洗濯機は使い方がわからない。


 私は一つのディスクを手に取る。それは、パソコンに挿入するタイプの、フルダイブゲームソフトだ。


「さて……。今日もバイトっと……」


 衣服の海をかき分け、フルダイブゲーム機のダイブギアを手に取るとパソコン台に向かう。電源を入れてセッティングを終わらせると、ベッドに寝転ぶ。


「ゲームログイン」


 意識が一気に引き込まれていく。いつも眺める電脳空間の映像。外部からの感覚は消え、ゲームの世界に入ったと自覚する。


 今回遊ぶのは『バーチャルワンダーランド』というゲーム。どうやらサービス存続危機真っ只中らしい。その理由を解明すべく依頼された。


 視界の中にウィンドウが開く。フルダイブゲームではよく見られるアバター設定画面だ。


 私はプレイヤー名に『ルグア』と入力。決定を押してみたが、『既に使用されています』と表示され反映が確定しない。


 使い慣れた名前なのに、一体誰が使っているのだろうか? とりあえず私は『ルクス』と入力して他のオプションをつけた。


 見た目設定も終わらせてゲームの世界に入る。初期アイテムとしてある鏡。これでいつでも設定を変更できるらしい。


「ここが、問題のゲームか……」


 私はステータス画面を開き確認をする。体力もメインステータスにも不思議な点はどこにもない。標準的な数値だった。


 ステータス設定は異常なし。では他に問題があるのか? 最初の街を歩いて回る。周辺にはサーカス会場や、アトラクションがあった。


 そんな建物にも不審な点はない。固定オブジェクトにも変な部分はない。どこもよくあるようなものばかりだ。


 近くに木箱があって、触れると絵柄がブレる。これは壊せそうだ。私は初期装備の剣を左手で握り、切り裂く。木箱はパリンッというポリゴンが弾ける音とともに消えた。


 その横には壺があり、これも壊せるのかと剣を振るが、こちらは破壊可能オブジェクトではないらしい。


 視線を大通りに移動させた時。そこにはやけに賑やかな人だかり。そちらの方に向かうと、1人の男性プレイヤーがゴブリンと戦闘していた。


 男性の容姿はどこかで見たことのあるようなシルエット。頭の上部には『ルグア』と書かれている。コイツが私のプレイヤーネームを……。


「ちょっといいか?」


 目の前にいた見物人の群れを両手で払いながら、前へと突き進む。そこにはポールが並んでいて、その先には行けなくなっていた。


 プレイヤーの上部には体力ゲージも表示される。彼の体力ゲージは残りわずか。ここでゲームオーバーになったら私の肩書きに汚名がつく。


 タイミングを見計らって飛び込む。敵のレベルは万を超えていて、初期装備しかない私は不利。それでも今はコイツを救う。


『おい! あいつ正気か? まだレベル1の新入りが乱入してきたぞ!』


 そう誰かが言った。多分私のことを指しているのだろう。剣を構える。敵を見据えて地面を蹴る。簡略化させたコマンドで速度を上げ。斬り込む。


 単純な動きなのに、敵のHPゲージは3割ほど削れる。設定されたレベルにしては弱い。それは私だけが思っているのだろうが。


 けど何故だ? 他プレイヤーは静かに見ているだけ。まあ、たかがゴブリンではただの雑魚だ。万を超えるレベルでも、雑魚は雑魚だ。


 私は後方に回りこむとすれ違ったゴブリンの瞳がギラリと光った。来る! すぐさま剣でガード体勢をとる。


(まだだ。まだ――ここだ!)


 敵の攻撃を溜めに溜め。一気に弾き返す。バランスを崩したゴブリンはその場に倒れ、さらに3割ほど削ることに成功した。


『あのルクスってやつの動き。どこかで見たことがあるぞ?』


『もしや、あの人が……、あのプレイヤーが……』


 どうやら、みんな気付き始めたらしい。見物者の視線が痛い。だが、ここは切り抜けなければならない場面だ。


 そんな中でもゴブリンは仲間を集め、私の行動範囲を狭めていく。これ以上増えたら正直困るが、これも予測済みだ。


 広範囲攻撃を行うと、他プレイヤーに被害が出る。まずは敵の数の確認だ。


(10……15か……)


 最初は1体しかいなかったが、かなり増やしてしまったらしい。その仲間ゴブリンもレベルが異常に高く。私の後ろにいるプレイヤーは腰を抜かしてる状態だ。


 敵の武器は様々。剣は全て鉄製に見え、槍も鋭利に尖っている。弓兵も追加されて、陣営がフルメンバーだ。


「みんな! ここから離れろ!」


 私は叫ぶ。しかし私を見守る人は食い付いて離れない。何かがおかしい。ゴブリンの攻撃を避けながら、観戦者を見る。


 どこにでもいるようなアバター。だが、一部のプレイヤーは表情を変えず、目に光沢がない。これはもしや……。


(観戦者の大半がNPC?)


 人間のような意思を持たず、同じ行動を繰り返すだけをプログラムされた、仮想人物。生身のプレイヤーがいないため、かさ増ししているのかもしれない。


 魂のない作り物のキャラクターは、興味を失ったように離れていく。


 見物人で残ったのは本物のプレイヤーだけ。後方で倒れる男性含めて5、6人くらいか?


 ほんとうに過疎化しているんだなと、運営が藻掻く姿が目に浮かぶ。彼らが販売元の〝ゲーム研究部〟に連絡した理由。それはきっとこのゲームを手放したくないから。


 ここは私が――


「ここから本番……。行くぞみんな!」

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