朝となり、今日でノワル村を旅立たなくてはならない。
せっかく仲良くなったのに、別れなきゃいけないこの瞬間は寂しいものだとルフは、いつも感じていた。
荷物のチェックをしていると、村長がアランに近づいてきた。
「旅立つ前にちょっといいかなアラン」
「……なんだ?」
「あの日渡しそびれて後悔していたのだが、このカメラを渡したかったんだ」
そう言い村長が渡したのは、手のひらサイズの小さなインスタントカメラ。
まるで新品のように傷一つない黒の光沢は、高級感を漂わせている。
「これは君の父が最後に作ったものだよ。いろんなものを残して欲しかったんだろうね」
「父さんが……。ありがとうございます」
「もし疲れたらいつでも帰っておいで。わたし達はいつでも迎え入れるよ。勿論、ルフくんたちもね」
村長は寂しそうな悲しそうな笑みを浮かべながら、ルフ達にも声をかける。
村長も分かっているのだろう。自分達の旅は果てしなく終わりが見えない過酷な旅なこと。
そして、帰ってくることは二度とない可能性が高いのを。
村人全員が入り口まで出てくると、元気でなと、無事を祈っているよと温かい声かけに背中を押されてルフ達はノワル村を後にする。
「ルフ、少しいいか」
村から出て北極星を目指し、少し歩いたところでアランがルフに話かけた。
ルフ達は歩みを止めると、一番後ろにいるアランの方を見る。
「どうしたんだアラン」
「いや、手紙の中にここを真っすぐ歩くと、ある家があるそうだ。そこのおじいさんは少々変わり者だが、物知りらしく、もしかしたら太陽のことを知っているんじゃないかと言うのが書かれていた」
「なるほど! それは行かなきゃだね。みんなもいいかな」
「えぇ、勿論いいわよ」
「私は問題ないね」
「そのおじいちゃん怖くなかったらいいな」
ベル、ソフィア、ローの三人はそれぞれの反応を見せたが、反対意見はないのでまずは村はずれに住んでいるというお爺さんの所へと向かうことへとなった。
「あれじゃないかな?」
暫く歩いていると鉄の板を繋ぎ合わせて作ったような小さな小屋が見えてきた。
よく見ると人影もある。近づくにつれてその人物が言われていた老人だということに気付いていく。
その老人もルフ達の存在に気付いたのかこちらを見つめてる。
「あの、すみません。お話聞いても大丈夫?」
「……なんだね」
近づくと老人は腰が曲がっており、白い髪にしわくちゃな顔をしている。
足が悪いのか鉄で出来た杖を突いている。相当の苦労をしていそうだなと感じたと同時に、何故か紫色の目がアランに似ているなとルフは感じていた。
しがれた声で話されて老人の方にルフは意識を集中させる。
「あの、俺ら太陽を探す旅をしてて、ノワル村の村長さんがあんたのことを紹介していたんだ。何か知っていることないかな」
「太陽じゃと」
太陽と聞いた途端に老人は杖を落としてしまう。
落とした杖を拾おうとするルフの肩を老人とは思えない力で掴んできたので、ルフは顔を歪ませる。
「おぬし太陽と言ったか! わしゃの話を聞いてくれ!」
「お爺さん。聞くからあまり強く掴むな。ルフが痛いだろう」
老人からルフを引き離すことに成功したアランは、ルフを軽く庇いながら老人を落ち着かせようとする。
アランの言葉に気付いたのか先ほどの迫るほどの覇気を潜めて、冷静になった後に家の扉を開ける。
「そうじゃな。まずは寒いから家に入るといい。そこでおぬしらが知りたいであろう太陽についてを、世界についてを話そう」
そう言い家の中へ入って行く老人を見て、ルフは扉を開けて家の中へと入っていく。
ルフの様子に心配そうにしていたローもソフィアの手を握り入っていき、最後はアランが入る。
すると、驚きの光景に目を見開くことになるだろう。
「鉄の悪魔がいる?」
ヌイーと呼ばれる獣のように、耳がピンと立っており、四足歩行の姿をして、全身が黒い鉄と緑のラインが施された一メートルはある鉄の悪魔こと機械が部屋の隅に居座っていた。
戦闘態勢に入ろうとするベルとアランを見て老人は声をかける。
「そやつはエラーじゃ。機械であるが、襲うことはない。わしゃの世話をしてもらっている。壊さんでくれ」
そう言い、老人が名を呼ぶと嬉しそうに近寄るエラーと呼ばれた機械は確かに敵意や殺意が感じられなかった。
ルフはこんな鉄の悪魔がいるだなんてと驚く。ベルとアランは敵意がないと判断したのか武器等を下した。
それを見た老人はゆっくりと自分で作ったであろう鉄の椅子に座る。