これは、もう10年以上前に私が体験した話しになります。
当時、私がお世話になっていたM出版社に一回り歳上のSさんという編集長がいました。
ある時、夏向けに心霊ムック本の企画を立ち上げたので、S編集長から「ひらやま君!手伝ってよ!」と声をかけて頂きました。
私にとっては、心霊に関わる仕事の話は初めてだったので、怖さよりも興味本位の方が強く、その誘いを二つ返事で引き受けました。
こうして、心霊ムック本の仕事が始まりました。最初は霊能者の方に取材をしたり、編集部に投稿された一般の方の心霊体験談の手紙の中から、誌面掲載用のネタを選定する作業など、初めての経験ばかりで非常にワクワクしながらやらせてもらいました。
しかし、私のそんな気持ちもS編集長から「明後日の夜、心霊スポットを撮影する仕事あるから、一緒に行くぞ!」という指示を聞いた途端、一瞬で吹き飛んでしまいました。
何故なら、私は当時、心霊スポットには直接行った事がなかったため、訪問したことによる祟りなどの霊障の類を非常に恐れていたからです。
そして、私が恐れていた撮影日がやって来ました。編集長が撮影場所として選んだのは、K県の心霊スポットとして有名な某トンネルです。
当日は22時頃に、S編集長と私の2人だけで出版社の社有車で出発しました。
現地に向かう車中で、私はささやかな抵抗として、「何か起きるかもしれないので、せめて昼間に出来ないんですか?」と提案しました。
しかし、彼は「馬鹿野郎!こういうのは夜中に行くから意味があるんだよ!大丈夫だよ!祟りなんかありゃしないから!ガハハハ!」と豪快に笑い飛ばして、聞く耳を持ってくれません。
そして、現地に到着したのは深夜0時過ぎでした。
私は、編集長の指示通りにデジカメで、トンネル内を撮影してましたが、その最中に彼は「おーい!幽霊さんよ!本に掲載してやるから、恥ずかしがらずに出て来てくれよー!」と叫び始めたのです!
私は「ちょっと!Sさん!そういう事言うのは止めましょうよ!」と忠告しましたが、やはり私の意見は聞き入れてもらえず、その後も彼はトンネル内で騒ぎ続けてました。
そして、一通り撮影が終わり、編集部に戻ってきたのは深夜3時過ぎくらいです。
私は心身共に疲れ果てていたので、すぐにでも仮眠を取りたかったのですが、書籍の締切日も近いため、S編集長と一緒に撮ってきたばかりの写真の中から誌面掲載用の写真を選定する仕事を命じられました。
その時は、編集部には他の人間は誰もおらず、私と彼は横並びのデスクで、2人きりで写真を確認してたのですが、その作業中に
当然のことながら、2人とも電灯には指一本触れていません。
私は(これは、心霊スポットで面白半分に騒いだから霊たちが怒ってるんだ!)と内心恐れていたのですが、彼の方は全然気にしてない様子でした。
結局、我々が撮った写真に一枚だけ、見方によっては左下の隅に人間の顔に見えなくもない〝何か〟が薄ぼんやりと写ってたのを確認出来ました。
「これだけでは、読者へのインパクトが弱い!」
というS編集長の意見から、後日に別のスポットへ撮影に行くという結論になり、作業は終了となりました。
それから、数日後……。業務中の編集長が、いきなり腹を押さえて倒れ込んだのです!
その顔は青ざめており、呻き声しか出せない様子だったため、すぐに救急車が呼ばれて、そのまま入院となりました。
医師の話によれば、S編集長の病状は腸捻転という事で、もう少し遅ければ、命を落としていたかもしれなかったそうです。
責任者である彼が長期入院を余儀なくされたため、作業中の心霊ムック本は、残念ながら発売中止となりました。
私は、この一連の出来事は多数の霊が漂う場所で非礼を行ったS編集長に対して、彼らが行った報復だったのではないか?と考えてます。
この体験以来、私は例え仕事であろうとも心霊スポットと噂される場所に赴く際は、決して面白半分な気持ちで行かない事を心がけるようになりました。