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ビジネスですからっ!~大嫌いなアイツとカップルチャンネル始めました~
ビジネスですからっ!~大嫌いなアイツとカップルチャンネル始めました~
藤掛ヒメノ
BL学園BL
2025年05月25日
公開日
2,254字
連載中
学校では馴れ合わない二人は、家に帰ればイチャイチャ(ビジネス)で!? 高校二年生の橙乃大翔は、進学への希望がすっかりなくなってしまったある日、女子生徒から勧められたUチューブをきっかけに、自分もUチューバーになると宣言する。  一緒に動画を作ってくれる相手を探していた大翔は、目を合わせればケンカばかりの藍川真夏が、仕送りを止められ、困っていることを知り、偽装恋人を提案。一緒にBLカップルチャンネルを立ち上げようと持ち掛ける。  学校ではいつも通りのケンカばかりの二人。家に帰ればビジネスカップルという二重生活が始まる――!?  ――偽装のはずなのに、どうしてこんなにドキドキするんだっ!?  高校生配信者のハイテンション・ラブコメディ! 水曜・土曜の20時更新予定! イラスト:藤掛ヒメノ

1章 カップルチャンネル始めました!

第一話 ビジネスカップル始めました!



 ボタンを押す前は、いつも緊張している。どこかおかしなところはないか、声は大丈夫か、顔は大丈夫か。画面の向こうには、何千人もの人たちがいる。その人たちにはその人たちの生活があって、どこかで息づいているのだと思うと、なんだか不思議だ。


 カメラは問題ない。パソコンも照明も、いつも通りだ。配信を始める前は、機材の一つ一つを確認していく。生放送ともなれば念入りに、画面に映り込むもの全てに気を配る。


 大翔はるとはノートパソコンを覗き込み、放送準備が整っているのを確認した。画面には既に待機している視聴者たちの、好意的なコメントで溢れかえっていた。深呼吸をして、放送開始ボタンを押し、真夏まなつの隣に腰かける。と、真夏が大翔の腰を引き寄せ、自分の膝にのせると、背後から抱き締めてきた。


「ちょ、おいっ!」


「良いだろ。ほら、始まった」


 真夏の声に画面を見れば、いきなりのバックハグに、視聴者のコメントが荒ぶって、大量のコメントやらスタンプが流れては消えていく。見なくても、「尊い」とか「イチャイチャありがとうございます」というコメントが流れているのは予想できた。


(ったく……)


 大翔は溜め息を呑み込み、カメラに向かって手を振る。


「こんにちはー! ナツハルチャンネル、ハルです! みんな元気ー?」


「ナツでーす」


 大翔の手首を掴んで、真夏が手を振る。行動に対して、真夏の声は低く、テンションも低い。そのギャップが良いとか、視聴者に言われているらしい。いつも通りに挨拶を交わし、流れてくるコメントを拾っていく。


「イチャイチャすんな? するなってさ、ナツ」


「やだよ」


「髪サラサラしてる? ありがとー。この前、視聴者さんに教えてもらったシャンプーに変えたら、めっちゃ調子良いんだよね」


「匂い? いい匂いだよ。ハルはいつも」


 甘ったるいやり取りと、それを煽る視聴者たち。大翔と真夏が運営する『ナツハルチャンネル』は、いわゆるカップルチャンネルである。それも、男性同士――つまり、BLカテゴリーの。


「――って感じでさ、めっちゃ面白いの。ナツも気に入ってたよな」


 そうだろ? と振り返って真夏の顔を見ようとした大翔は、その顔が思ったよりもずっと近くにあって、ビクリと肩を震わせた。


「わっ……」


 思わず声を漏らした大翔の頭を掴んで、真夏が引き寄せた。唇の端に、ふに、と真夏の唇が押し当てられる。カメラの角度的に、視聴者の視点からは、キスしたように見えたはずだ――。いや、完全にしていたのだが。


(コイツ……)


 半ば呆れて反応の薄い大翔に、真夏は調子に乗って耳許にキスしながら、Tシャツの裾に手を突っ込んできた。


「おっ、ちょっ」


 コメント欄が、勢いよく流れていく。『いいね!』のボタンが次々押されて、桁がくるんと回転して数字が増える様が、気持ちいい。チャンネル登録者の数も、一気に増えたのが解った。


『もっとやれ』だとか『ごちそうさま』だとか、『ナツハル最高!』だとか。そんなコメントに埋め尽くされていく。


「もっとやれって?」


「馬鹿ナツっ! やりすぎ!」


 さすがにまずいと、真夏の頭を押し返し、真っ赤になってシャツを直す。真夏が不満そうに「ちぇ」と舌打ちした。


「あんまり馬鹿やってると、収益止まるから! チャンネルバンされるしっ!」


 コメント欄には、残念がる視聴者と、ハプニングを喜ぶ視聴者の姿が溢れている。どちらにしても、ここに来ている『お客様』は、満足したようだ。


(よし。こんなもんか。そろそろ時間だな)


「じゃあ、そろそろ良い時間なんで、また今度ね~」


「ん。早く終わらせて続きしような、ハル」


「ばっか! そう言うのは言わなくて良いのっ!」


 さよならのコメントに混ざって、『続き見たかったw』とか『楽しんでwww』というコメントが入る。それを見て、大翔はホゥと息を吐いて、配信停止ボタンを押した。


「よし、終わりっ」


 画面と音声を切って、確実に終了したのを確認する。と、大翔を膝にのせたまま、真夏が立ち上がる。当然、予想していなかった大翔は、そのまま床へと盛大に転がった。


「痛って! お前! 立つなら言えよ!」


「あー、ダル。うがいしてこよ」


「はぁ!? こっちは消毒するし! ってか、勝手にキスすんなって言ってるだろ!」


「視聴者、喜ぶじゃん」


「っ、そ、そうだけどっ……!」


 あくびをしながらバスルームに向かう真夏の背を追いかけて、大翔は文句を投げつける。


「いつもやり過ぎなんだよ!」


「あのぐらい、普通だろ? ああ、もしかして、意識しちゃったんだ?」


「は!? 誰がっ!」


 ニヤニヤ笑う真夏に、真っ赤になって否定する。馬鹿にしたような真夏の態度が気に入らない。


「ま、お前、経験なさそうだし」


「う、うるせえっ! 経験くらい、あるしっ!」


「へー?」


 カップに水を注いで、本当にうがいを始める真夏に、大翔はムッとして唇を結んだ。


「ふん。うがいなんかして、お前の方が意識してんじゃん?」


「は?」


 水滴を垂らして、真夏が低い声でそう言いながら振り返る。濡れた唇がどこか色気があって、大翔はドキリと心臓が跳ねるのを感じた。


(っ……)


 真夏が大翔の胸を、グーで小突く。


「誰が」


「何だよ」


 ムッと顔をしかめたまま、互いに睨み合う。


 いつもイチャイチャしてばかりで、視聴者置いてけぼりの熱々カップル配信をしている、『ナツハルチャンネル』のハルこと、橙乃大翔とうのはるとと、ナツこと藍川真夏あいかわまなつ


 その実態は、顔を合わせればにらみ合い、口を開けば罵り合うといった有り様だ。


 額がくっつくほどににらみ合いながら、同時に言い放つ。


「「言っておくけど、お前とはビジネスだからなっ!」」



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