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呪いの祠
呪いの祠
小形犬
ホラー怪談
2025年05月25日
公開日
1,220字
連載中
いわくつきの祠を壊した者に降りかかる呪いとその正体とは…

呪いの祠


その祠を見つけたとき、私はただ古びた木の塊だと思った。森の奥、苔むした石の間にひっそりと佇む、朽ちかけた小さな社。仲間たちと辿り着いたのは、ただの衝動だった。暗い森の匂いに惹かれ、木の温もりに導かれるように集まっていた。


古老の囁きが遠くで響いていた。「触れてはいけないもの」。だが、そんな話は笑いものだった。


健太が言った。「こんなボロいもの、壊したって誰も気づかないよ」。彼はいつもそうだ。怖いもの知らずで、衝動的。私もその流れに乗った。祠の表面に手をかけ、力を込める。木は脆く、簡単に崩れた。ガサッと音を立て、木片が落ち、粉塵が舞った。中は空っぽだった。


拍子抜けした私たちは笑い合い、先に進んだ。


だが、その夜から異変が始まった。


森の奥、祠の近くで仲間たちと身を寄せ合っていた。夜は冷たく、木々の揺れる音が不穏に響く。突然、健太が震えた。


「何か…身体が変だ」


彼は呻くように言った。最初は気のせいかと思ったが、彼の動きが鈍くなり、身体が硬直していくのが見えた。


「おい、どうした?」


声をかけると、彼は突然倒れ、震えながら奇妙な音を立てた。まるで内側から砕けるような、乾いた音。


仲間たちがざわめく間もなく、祠の周囲から白い霧が這うように広がってきた。まるで生き物のように、ゆっくりと、しかし確実に私たちを包み込む。霧は冷たく、鼻を突く匂いを放っていた。身体が重くなり、息苦しさが押し寄せる。


「この霧…何かおかしい!」


私は叫んだが、声は霧に飲み込まれるように弱々しく響いた。


美咲が膝をついた。震えながら地面に沈み、顔が青ざめていく。


「助けて…」


彼女の声は途切れがちになり、やがて静かになった。動かなくなった。


私は逃げようとした。木の根元を進み、土の間を抜けて必死に走った。だが、霧はどこまでも追いかけてくる。視界は白く濁り、身体が重く軋む。


祠のことが頭をよぎった。あの古老の言葉。「触れてはいけない」。


壊したことで、何かを怒らせたのか? 呪い? 神の怒り?


動きが鈍りながらも、必死に進んだ。


どれだけ進んだだろう。気づけば私は祠のあった場所に戻っていた。霧はまだ濃く、周囲を覆っている。そこに、ぼんやりとした人影が見えた。


ローブをまとった老人。手に奇妙な器具を持っている。霧を吐き出す金属の筒。彼は無言でそれを操り、祠の隅々へと霧を向けていた。


「お前…何をするんだ!」


私は叫んだが、声は霧に吸い込まれ、微かな音にしかならなかった。老人は私を見ず、ただ黙々と作業を続けた。まるで私など存在しないかのように。


その瞬間、頭の中で何かが繋がった。あの祠。あの霧。そして、仲間たちの死。


「これは…お前の仕業か!」


言葉を続ける前に、身体が急に重くなった。視界が揺れ、地面が近づいてくる。まるで私の存在そのものが溶けていくようだった。霧が私の全てを飲み込み、意識が途切れた。


---


「これでシロアリ駆除完了じゃな」


祠の管理人は足元に散らばる無数の小さな亡骸を見て呟いた。

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