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 その看護師と医者の部屋には、それぞれの机とベッドが配置されている。


 当直の際には、ここで仮眠をとることもできるようになっていた。 また、シャワールームやロッカールームも完備されている。 要は、まるでマンションの一室のような雰囲気だ。


「な、なー……もう、昼だし、飯にしねぇ?」

「あ、ああー、もう、そんな時間だったのか!?」


 そう言って望は驚いたように言い、自分の愛用の腕時計を見つめた。 確かに和也の言う通り、時計はお昼を指していた。


「ああ、確かに、そうみたいだな」


 和也が答えると、望は椅子から立ち上がった。


 この病院には職員用の食堂がある。 男性ばかりの職場で、また忙しくて食事を作る暇がない職員が多いからだろう。 だから、職員用に食堂が完備されている。


 その途中で、望は和也に気になっていることを尋ねてみることにしたようだ。


「なぁ、和也……俺って、そんなに女っぽいか?」

「え? あ、うーん……」


 望からの質問に少し考え、それを本当に望に言ってもいいのか悩む和也。 だって、さっき望はその言葉を聞いただけで怒っていたのだから、余計に難しい。 和也もそれに気付いていた。 でも、逆に言えば、望が自らそのことについて聞いてきたのだから、怒らないと信じて、


「あー……そのことなぁ? 確かに俺的にも言いにくいところだったんだけど、まぁ、あー、そうだなぁ……少なくとも俺はそう思うかな?」


 和也は素直に言うものの、やはりこう言いにくそうに答えた。


「あー……やっぱり、そうなんだよな?」


 半ば仕方がないと思ったのか、諦め気味に答える望。


 ある意味、和也の答え方で合っていたのかもしれない。 和也はホッと胸を下ろす。


 だって、望からそのことについて聞かれたのだから、逆に怒られるのは人間的にもおかしいところだろう。 怒るのであれば最初から聞いてくるな! とも答える側の人間はそうなってしまうのだから。


 二人は会話しながら食堂へと向かい、カウンターからご飯などを受け取りお盆に載せ、空いている席へと座る。


 この食堂は本当に広い。


 ここの病院では多くの職員が働いているからだろう。 医者や看護師はもちろん、清掃員や薬剤師など、様々な職種がいる。 だからこそ、ここのスタッフが食堂でくつろげるようになっているのだ。


 現在の時間はお昼丁度で、外来の方はまだ終わっていないようで、混んでいる時間帯に比べると人が少ないようにも思える。


 この食堂は入口側に窓はないが、反対側には病院の中庭を見渡せるカウンター席がある。 中庭には木々や草、花が植えてあり、緑豊かな空間になっている。 まるで癒しの場所だ。


「ん? まだ、さっき、あの消防士が言っていたこと、気にしてんのか?」


 和也はそのことに気になったらしく、望に尋ねる。


「あ、ああ……まぁ、ちょっとな。だってさ、俺を見てあんなこと言うんだぜ! 普通、初めて会う人に向かって言える言葉だと思うか?」

「もしかして、あの患者さん……望に気があるんじゃねぇの?」


 和也は半分ふざけて言っているようだが、半分は本気だ。 そのことに気づいてしまったのは、和也も望のことを好きになっているからなのかもしれない。


 いつの頃からか和也は望のことが好きになっていた。


 しかし、相手は男性。 これが女性であれば、和也の性格からすると直ぐにでも告白していたのかもしれない。 しかし、好きになった相手が男性だと、そう簡単には告白できないことを理解している。 だから和也は望のことが好きでも告白出来ないでいた。 


 それに、もし和也が望に告白してしまったら今の関係が崩れてしまうかもしれない。


 そうだから和也は望に告白出来ないでいるのであろう。


 そんな中、和也は食事を口にしながら望の横顔を軽く覗き込む。

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