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「なんだよー、その緩みっぱなしの顔はさぁ。さては、アイツといい事してきたな」


 望の顔の変化に気づいた和也はそう言いながら望の頰を軽く突くのだ。


「うるせぇよ……」


 ふざけて言っている和也に対し、望は分かっているのか本気に怒らずに軽く和也の腕を払い除ける。


「ま、良かったんじゃね? お前もアイツも俺もそういう関係になれたんだからさ」


 そんな風に言う和也も今こうして望といて幸せに感じているのだからいいのであろう。


「な、今日は仕事も終わったんだし、帰ろうぜ」

「そうだな。 じゃ、帰るか?」

「じゃあさ、飯行こうぜ!」

「いいな! たまにはステーキにしたいかも?」

「お! それいいね! だけど、望のおごりでな!」

「えぇー!! ちょっと待てよ……」

「それさ、ずっと前に約束してたの忘れちまったのか?」

「あ……そう言われてみればそうだったな。ああ、分かった、今日は俺の奢りでだな」


 望はそう答えると白衣を脱ぎスーツへと着替える。


「早くしろよー、和也ー!」

「そりゃ、ねぇだろ。 望の場合には白衣脱いでジャケット着るだけだけど……お、俺の場合にはな、上下共に着替えなきゃなんねぇの!」


 そう和也はロッカールームから叫ぶように言うのだ。


「ああ、うん! 知ってる! だから、わざと急かしてやったんだよ」


 望は先程のやり返しとばかりにイタズラな表情を浮かべながら言う。望もそういうところではまだなだ子供っぽいところがあるという事だろう。


「おい……」


 そう小さな声で突っ込む和也。


 こうしてこっちはこっちでまた友情を取り戻したようだ。




 それから数週間後。


「今日は当直かぁー……」


 そう憂鬱そうに言う和也。


「だな……。昨日はちょっと羽目外してお酒なんか呑んだもんだからさ、体が怠いのかも」


 今日の二人は当直で先程、駐車場で会ったばっかりだ。


「なぁ、知ってたか? 点滴って二日酔いに効くんだってさ」

「んじゃあ、それなら、してもらおうかな? まだ、時間はあるんだろ?」


 望はコートをハンガーへと掛けて白衣へと着替えると椅子へと腰を下ろす。


「ま、確かに時間はあるな。まぁ、これで少しは楽になれると思うぜ。じゃあ、俺取ってくるなぁ!」


 そう言って和也はナースステーションで点滴を取って来ると部屋へと戻って来る。


「望ー、腕出して」

「ん? ああ……」

「勿論、利き手じゃない方がいいよな?」


 と言っている間に和也は針を刺したらしくあっという間に終わらせたのだ。


「はい! 終わり!」

「へ? え? 早くねぇ?」

「まぁ、打ちなれてはいるしな」


 そう言うと和也の方も椅子へと座るのだ。

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