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ー記憶ー94

 でも、雄介にはもう望のことを見守るしかできない状況だ。それに、ここからは救急の仕事でもあるからかもしれない。


 そしてここからは、もう雄介からしてみたら今は神に祈るしかできない状態でもある。


 救急車の中では、救急隊員が一生懸命動いていた。


 雄介だって望がこんな状況なのだから、手の一つ位握りたい所なのだが、流石にこの状況で自分たちというのは、男同士の恋人だからそんなことができるわけがない。


 兎に角、今は望が意識が戻るのを願うしかない。


 その時、車内に機械音が鳴り響く。


 先ほどまで反応を示してなかったのだが、機械音が動き始めたのだ。


 その音に反応したのは救急隊員だけではない。


 雄介は両手を握り神にも祈る思いで俯いていたが、その機械音に顔を上げる。


 その機械音は誰もが聞き覚えのある音だ。


 そう、望が意識を回復してきているという合図だ。


 それと同時に、車内から安堵の息が漏れた。


 そしてその直後、望はゆっくりと瞳を開けた。


 その動作が雄介の視界に入り、救急隊員を退かせてまで雄介は望の側へと向かい、


「大丈夫か? 望……」


 雄介は周りを気にせずに望の手をギュッと握りしめる。


「……え? あ……うん……?」


 まだ望の方は意識がハッキリとしていないのか、ボーッとしながら雄介の質問に答えながら天井を見上げていた。


「そっか……ほなら、良かったわぁ」

「なぁ、ここは何処だ?」

「ああ、ここか……ここは救急車の中やで」

「ふーん……」


 望はそう言うと、


「じゃあさ、君は?」

「………!?」


 望からの質問に、目を見開く雄介。

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