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ー記憶ー127

 二人が恋人同士だと知っている和也は、その二人の行動に楽しそうに微笑んでいた。


 そして、待合室で午前の外来が終わるまで雄介は待たされた。その間にも待合室にいる患者さんたちは次々に減っていく。


 すると、その時、


「桜井さん、どうぞー」


 和也がどうやら冗談めかして雄介のことを呼び出すのだ。


 そして雄介は和也に呼ばれると診察室の方へと向かう。


「おい……やめろよ、和也……! 恥ずかしいし」

「ま、いいよ、いいよ……ほら、完全に戻った望に会いたいんだろ?」

「あ、ああ……まぁ……」

「望も早く雄介に会いたいから、午前中の診察を早めに終わらせてくれたんだからな」

「……へ?」


 和也は雄介に診察室に入るよう促す。


 雄介は先程までは望に会えることに興奮していたが、今はその興奮が冷めてしまっているのか、自分の行動が恥ずかしいと感じているようだ。


 このままでは望の元に向かうことができない。


 そこで和也に背中を押され、雄介は診察室のドアを開ける。


 そこにいたのは多分いつもの望だろう。 雄介はまだ望の記憶が戻ったということを知らないので、まだ疑心暗鬼の状態だ。


 しかし、雄介の目の前にいる望は、雄介が研修に行く前とは違い、仕事をこなしているようで、雄介は安心する。 雄介が研修に出掛ける前は、望は仕事をしていなかったはずだ。だけど今は診察室の椅子に座ってちゃんと仕事をしていた。


 しかし、雄介は冷静になってしまい、望にどう話しかければいいのか悩んでいるようだ。望の前にいるのに、直視できていない。


 雄介とは裏腹に、和也の方は雄介の背中を押して診察室に入るよう促し、雄介は椅子に座る。


 急に冷静になってからでは、久しぶりすぎて言葉に詰まる。


 一方、望の方は相変わらず雄介に会うことが久しぶりすぎて、直視できないようだ。


 このままでは何も先に進まない。


「……ったく、お前らってば」


 和也はその二人の様子に呆れたようにため息をつき、


「雄介、腕見せろよ」

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