深紅の頬を持つ望は、怒鳴り声を上げるものの、その半分は本気ではなかった。
そんな望に、雄介は嬉しそうに微笑み、すぐそばにあった蒸しタオルを手に取る。
そして、それを望に差し出した。
「身体を拭いた方がいいんやない? 午後も仕事が待ってるやろ?」
「ああ、まぁな……」
雄介は望の体を軽々と抱え、診察室のベッドまで運んだ。
「お前……」
その一言で、望が何を伝えたいのか、雄介は理解した。
「そりゃな……今まで鍛えてきたしな……お前一人ぐらいなんて軽いさ……」
そう言いながら、雄介は望の唇に自らの唇を重ねる。
やっと、二人の間に戻れたような気がした。
唇が離れると、二人の顔に自然な笑みが浮かぶ。
色々あったけれど、これからも二人は一緒にいられるだろう。
望は自らの体を拭き終えると、真剣な瞳で雄介を見つめた。
それに気付いた雄介は、首を傾げながら首にハテナマークを浮かべてしまった。
「……何?」
「覚えてるか? 前に約束したこと」
「ああ! もちろん! 『一緒に住もう』やろ?」
「ああ……」
やっと、雄介の前できちんと人の目を見て言えたような気がした。
これからはずっと一緒。だからこそ、キツい仕事でも耐えられるのかもしれない。
今度からは、二人で何もかも楽しもうか。
これからの人生、まだまだ先があるのだから。
『ー記憶ー』END
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