いい加減、雄介の方も和也の言葉に黙っていられなくなり、和也を睨みつけた瞬間、
「もう、止めろよっ! お前らなぁ! ちょっとは今の状況を考えろっ! 今はそんなことで争ってる場合じゃねぇだろうがよ!」
「……望?」
「望……何処に行ってたんだ?」
望はどこからか戻ってきて、自分の椅子に座った。そして和也は望の側に向かっていった。
「あー! うるせぇな! トイレだよ! トイレ! そこ、自己申告しなきゃなんねぇものなのか!?」
望は顔を赤らめながらそう叫ぶように言った。
「なんだよー 、トイレだったのか……」
「それをでかい声で言うんじゃねぇよ……まったく」
そう言うと望は和也の頭を軽く叩いた。
望からすれば相当恥ずかしい言葉だったのかもしれない。だがこういう風に当たり前のことができているのだから、少し雄介の方は安心できたように思えた。
「ちょ、痛ったー!」
「当たり前だろ……今のは痛いように叩いたんだからな」
そんな二人のじゃれあいに微笑ましい顔をしながら、雄介はゆっくりとソファに座った。
その二人を見ながら今回のことを思い出す雄介。
そうだ、今まで住んでいた場所で大きな地震があったと聞いて、自分は動けなくなってしまった。そして地震が起きた時、真っ先に要請されるのがレスキュー隊と自衛隊だ。自分がいる所に要請があった時には本当に嬉しかった。確かに嬉しかったというのはおかしいのだが、やはりそこは仕方がないのかもしれない。恋人が危険な目に遭っているのかもしれないのにじっとしているだけなんてことはできない。確かにテレビでは連日中継されていたが、それは都心部が多く、望が住んでいる地域の情報はまったく入ってこなかったからだ。それに携帯なんか全くもって繋がらない。恋人が危険な目に遭っているかもしれないのに心配しない人はいないだろう。
地震が起きた後、現場へ向かう準備をし、ヘリコプターに乗り込み東京へ飛び立つ。ヘリコプターはゆっくりと東京へ近づいてくるが、下に見えてくる東京の街並みは荒れ果てていた。