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ー天災ー75

 雄介は今の地震で思わず体が動いてしまい、望の元へと駆け寄り、望を覆いかぶせるようにして彼女を庇うのだった。


 その揺れはすぐに収まり、


「大丈夫やったか?」


 そう雄介は心配そうに望に声を掛けるが、望からの返答がない。


 フッと雄介は望に気付くと、彼は体を震わせ、瞳をギュッと閉じていた。


「……望?」


 雄介は再び声を掛ける。


「……雄介」


 望は雄介の問いに声を震わせ、彼を呼ぶ。


「何? どないした? 俺は今、お前の側におるし、安心して……」


 そう雄介は優しく答える。


「あ、ああ……ん……なんでもねぇ……」


 確かにあの地震の時は患者さんのことが心配で先に体が動いていたが、今考えると怖かったことを思い出してしまったようだ。


 トラウマというのはそういうものだから。


 今まで必死に他の人のために動いてきたが、今は違う。


 今はプライベートな時間というスイッチが入っていたのであろう。要は普通の人と同じ感覚だ。だから今更あの時の恐怖が蘇って来てしまったのかもしれない。


 そして雄介という恋人が近くにいるのだから余計に甘えたい気持ちになったのであろう。


 自分だって普通の人間だ。機械やロボットではないのだから感情はある。感情というのは人間だけのものだ。その感情があるからこそ怖いとか嬉しいとか悲しいとかいうものがあるのだから。恋人を前にした時には、そりゃ甘えたい気持ちになるだろう。誰よりも頼れてしまう人物というのが恋人なのだから。だけど望の口からはそんなことを素直に言えるわけでもなく、ベッドの上でじっとしていることしかできなかった。


「どないした?」

「何でもねぇよ……」


 何もしてこない雄介にため息をつく。


 ……抱き締めて欲しい。


 そう素直に言えたなら本当に楽なことなんだろう。

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