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ー天災ー80

 雄介は望に確認するかのように、もう一度聞き直した。


「だから、いいって言ってるだろっ! 俺の気が変わらないうちに早く!」

「そうやな……こんなこと、滅多なことやないし……ほな……」


 今まで雄介は我慢してきた。とうとう望の押しに負けたのか、自分の欲望に負けたのか、分からないが、キスでもしようかと思ったその時、甘い雰囲気を壊すような音が鳴り響く。


「……え? ん? あ、携帯!?」


 それは望のポケットに入れておいた携帯が鳴っているようだった。


 しかし、その音は数秒で止んでしまった。


 今まで良い雰囲気だったが、その音で完全にその雰囲気は消え、携帯も音で冷めたようだ。


 望は息を吐き、半身を起こしてその携帯を開いた。


 あの震災から今まで携帯は鳴っていなかったが、やっとここで復旧してきたのだろう。


 もしこれが和也からだったら「後で覚えてろよ!」と思っていたが、それはどうやら違ったようだ。


 携帯を開くとメールマークが点滅している。よく見ると、どうやら和也ではなく数日前に望に宛てて送られてきた親からのメールのようだ。


「親からのメールやったわ。『大丈夫か?』って……」

「……へ? そうなん? そういや、望の両親ってどこにおるん?」


 これは今まで聞いたことがないことだ。家はあるのに、その家には望の両親はいなかった。


「あぁ……今は海外に住んでる……」

「……へ? 海外!?」


 望は再び息を吐いた。


 もう完全に今のメールのせいで雄介との甘い雰囲気は消えてしまっていた。だからなのか、


「も、いいや……とりあえず、帰ろうぜ……」


 さっきまであんなに雄介に甘えてみたかったのに、今は完全にメールのせいで吹っ飛んでしまったようだ。望はそう言うと、雄介の方は、


「そやな……」


 そう言って、雄介はベッドから降りていった。


「じゃあ、行こ……」

「ああ……」


 そう望は名残惜しそうには答えたが、やはりここはもう帰るしかないだろうと思ったのか、病院の方へと戻るのだ。

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