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ー天災ー83

「あー……今は救助にこっちに来てるからさ、ここにいるんだけどな」


 望はそう当たり障りのないように答える。


 そう言うと隣にいる雄介が小さな声で、


「何で、俺たちが恋人同士だってこと言わないんだ」

「そんなこと、普通にいきなりカミングアウトするわけないだろうが。 そういうのよく考えてみろよ」

「せやけど、俺たちのラブラブぶりを見せつけたいやんか」


 こう語尾にハートマークが付きそうな感じで言ってくる雄介なのだが、そんな雄介を制止させるべく、望が軽く雄介の頭を叩く。


「いいから……お前は黙ってろよ」


 そうコソコソと雄介に向かって念を押していると、


「そこのお二人さんは仲よさそうですね」


 とまたもやこうストレートに言ってくる裕実。そこに和也は、


「ああ、そうなんだぜー! そりゃ、勿論……!」


 望は雄介を黙らせたつもりだったが、まだこういうことに関して余計なことを言う奴がいたことを思い出す。


「おぉい! 和也っ!」


 望から斜め向かいのソファに座っている和也のことは叩けもせず、そして静止させることもできなかったようだ。とりあえず望は人差し指を口に当てて「シッー」とするが、和也はその望からのサインを気にせずに望に向かってあっかんべーをしている。


 この分では、もう望と雄介の関係が和也の口から漏れるのは時間の問題なのかもしれない。


 とりあえず今日は話をそこら辺にしておくと、二十一時前にはベッドの方へと向かう。


 だがその夜、みんなが眠りはじめた頃、未だに眠れない人物がいる。


 その人物は望の隣で両腕を下に、暗闇の中、二段ベッドの天井を見上げていた。


 次の瞬間には一つため息を漏らし、瞳を閉じる。


 瞳を閉じても考えることがありすぎて、眠れるわけでもなさそうだ。


 この仕事がひと段落したら、またここを離れなければならない。

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