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ー天災ー114

 和也が最後まで何も言わないうちに、望はICU室用の服を着て中へと入り、雄介の元へと急ぐ。


 そう、さっきまでの思いが現実になってしまったのだろう。


 望はさっき、雄介が怪我でもして入院してくれれば暫く一緒に過ごせると考えていた。


 しかし、実際に起こってしまうとショックの方が大きいのかもしれない。


 雄介の状態は望が診た訳ではないが、あれほどの包帯で身体が覆われているのだから、重体に違いないのだから。


 そして雄介のベッドの所には名札があり、その名前は桜井雄介と書かれていた。


 それを見て、望は深く息をつく。


 やはり、それは現実だ。和也から聞いた時には半信半疑だったが、名札を見てやっと雄介が怪我をしてここにいることが理解できた。しかも顔まで包帯で覆われている。


 何がどうしてこうなってしまったのか、理解不能の状態だ。自分が治療にあたっていれば雄介の状態が分かったかもしれない。今日ゆっくりしていなかったら、自分が雄介の治療をしていたかもしれないと後悔してももう遅い。


 望は雄介の手を握る。その瞬間、和也も雄介の元へと現れるのだ。


「多分、雄介なら大丈夫だろ? ほら、今までだってちゃんと復活してきたじゃねぇか」


 和也が笑顔で言いながら、望の背中を優しく叩くのだった。


「ああ、まぁ……」


 望は一言返し、雄介の手を握るのだ。


 すると、その瞬間、ICU室に嫌な音が響き渡った。


 その音の発信源はどこだろうか。望は必死になって探したが、雄介以外の患者さんではない。


 ……まさか、雄介が?


 望は雄介のモニターをチェックするのだった。


 きっと、今の望の心臓の鼓動は最高潮に高鳴っているだろう。


 そしてモニターの画面を見ると、中央でラインが一定時間流れているのがわかった。

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