和也は、ニュースを見て親友がその当事者だと知り、ポケットから携帯を取り出して望に電話をかける。しかし、当然聞こえてくるのは望の声ではなく、『お客様のお掛けになった電話番号は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため、掛かりません』という機械的なアナウンスだけだった。
望たちは飛行機に乗っているため、機械的なアナウンスが流れるのは分かっていたが、確認のために電話をしたのだろう。
「やっぱりダメか……まぁ、繋がるわけがねぇとは思ったんだけどさ……」
和也は悔しそうに言い放ち、裕実の手を取ってホテル代を払い部屋を出て、再び空港へ向かう。
今日は何度この道を往復しただろうか? 今はそんなことを考えている場合ではない。一刻も早くもっと情報を知りたいという思いが強い。ナビをテレビにしてみても、ハイジャックの情報はなく、夜の番組が続けられている。
今はまだ二十一時三十分。
現在のテレビの時間はドラマのゴールデンタイムだ。だからテレビ局も途中で番組を切り替えることができないのかもしれない。
しかも今日は土曜日で、夜のニュースはあまりない曜日でもあったような気がする。とりあえず、どの番組でもいいからハイジャックのニュースを取り上げてほしいと思うのは、雄介も望もその飛行機に乗っているからだ。
今、望たちがどうなっているのか全く分からない。そんな不安を抱えながら車を走らせ続ける和也。本当は車のスピードを上げて空港に向かいたいが、日本には道交法というのがある。守らなければ警察に捕まってしまうので、今はそれを守らなければならない。
なかなか目的地に辿り着けないことへのイライラが募る和也。
思わずそれが口に出てしまった。
「くっそ!!」
和也は小さく怒りを込めて言い、左手でハンドルを叩いてしまう。
そんなことでは怒りが治まらないのは自分でも分かっているが、止めることはできなかった。
それから十五分も経った頃だろうか。やっと目的地である空港に着き、和也はすぐに裕実の腕を取ってターミナルへと急ぐ。
そこに向かうと、関係者らしき人々やマスコミがロビーに集まっていた。
和也はターミナル内にあるテレビ画面を見上げて足を止める。そこにはアナウンサーが「ハイジャックがありました」と告げているだけで、後の情報はまだなかった。確かに飛行機内で起きていることなのだから誰も詳しい情報を持っているわけではない。
そして望たちが乗っている飛行機がハイジャックされたのは、もう十数分前のことだ。
望たちの乗る飛行機が東京から離陸し、安定飛行に入った頃、シートベルト解除のアナウンスが流れたのかもしれない。望たちは二階席のファーストクラスの左側に座っていた。これも偶然か、望の隣には雄介がいる。ただ、もしかしたら誰かと場所を変わってもらったのかもしれない。