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ー空間ー149

「とりあえずなぁ……今は抱きたいとか思ってへんし、ただな、望とこうイチャイチャしてたいっていうんかな? ほら、望とゆっくり出来るのは今日だけみたいなもんやろ?」


 そう笑顔で言う雄介なのだが望の方は頭を掻きながら大きなため息を一つ吐く。


「あのなぁ、和也の奴から聞いてねぇのか? 俺は月曜日までは大阪にいるつもりだ。だから明日学会が終わってから雄介に会うつもりだったんだよ」

「ん? なんやそうやったんか、それなら、早く言ってくれたら良かったのに……。そういう事やったんなら、こないな所に望ん事、連れ込まなくて良かったのにな。ま、ついでやし、イチャイチャ……」

「キャー!!」


 と雄介が最後まで言葉を言わないうちに飛行機内から悲鳴が聞こえて来る。


 やはり雄介の嫌な予感というのは的中したという所だろう。


 雄介は女性の悲鳴が聞こえてきたと同時に今までニヤニヤしていた表情を一変させ今度は真剣そうな表情へと変え望の口を押さえる。


「ん……! な、に……すん……だよ!」

「ええから、ちょ、黙っておいて……」


 とりあえず雄介は望の方に視線を向けると、今までにはない真剣な表情で望の事を見つめ人差し指を口に当てると「静かに」という指示を望に向けてするのだ。


 雄介は静かになったトイレで息を飲み外の様子に聞き耳をたてる。このトイレからでは座席の様子は全くもって分からない。だから聴覚だけが今は頼りだ。


 それを聞いていると、


「二階席にいるお前等全員! 前の席に詰めて座れ!」


 多分、ハイジャック犯の一人がそう指示をしているのであろう。低く大きな声が客席内に響きわたる。


 それと同時に乗客達は怯えながら犯人の指示に従っているのかもしれない。床を靴でする音だけが聞こえてくる。


 すると、もう一人の犯人が、


「二階席にいるうちの二人が居ません!」


 そう言っている声が聞こえて来た。多分、それは雄介と望の事だろう。


 それを聞いた雄介は生唾を飲む。


 まさか、あんだけの人数の中で自分達の事も把握されているとは思ってはなかった事だ。雄介はただトイレ内で望と息を潜めて今は隠れている事しか出来なかった。


「ここで隠れられる所は一つ! 後の二人はトイレにって事か!?」


 そう最初に乗客に指示を出していた犯人がそう口にする。そしてニヤリと口元を上げると、どうやら、その犯人は望達がいるトイレへと近付いて来ているようだ。


 一歩、一歩と足音がトイレの方へと進んで来ているのだから。


 雄介は自分達がここに隠れていないように誤魔化す為にトイレの看板を『空き』へとこっそりと変えるのだ。そしてまだ息を潜めてトイレに止まっている雄介と望。

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