だが、雄介の背中の傷が本当に尋常ではないということは望自身も分かっている。
確かに雄介は望にその背中の傷を見せてはいないのだが、床に流れ出ている血の量を見れば一目瞭然だ。流石にこの血の量では雄介の体力、気力が最後まで持つかどうかというところまできてしまっている。
望が正面を向くと、ゆっくりと飛行機は高度を下げてきているようで、目の前にはもう飛行場の滑走路が周りの灯りと共に見えてきた。
雄介はヘッドセットから聴こえてくる管制塔からの指示に従って、どうにか飛行機を着陸させようとしていた。
飛行機はやっと滑走路の真上まで来たのだろう。雄介は管制塔の指示に従いながら、飛行機のタイヤを出すことができた。あとはちゃんと飛行機が無事に着陸できるか、というところだ。
今、飛行機がバウンドしたので、タイヤが滑走路に着いたのだと分かる。これがちゃんとした操縦士だったらバウンドなんかせずにタイヤを滑走路に下ろせたのだろうが、そこは素人の雄介だ。だからバウンドくらいは仕方がない。あとは速度を落として止まれればいいだけの話だ。しかし、これだって操縦桿を握っている者にとっては気が抜けないところである。
止まる場所がオーバーしてしまえば建物にぶつかる可能性だってあるのだから、ここが最も気が抜けないところなのかもしれない。
流石の望も瞳を開けられなかったのか、瞳を閉じていると急に飛行機の動きが止まったのが分かった。
どうやら無事に地上へ着陸したようだ。望はゆっくりと瞳を開ける。すると、本当にギリギリのところで建物にはぶつからずに済んだようで、飛行機は止まっていた。一応、素人の雄介にしては良かったのかもしれない。
そして望はすぐさまヘッドセットで救急車を要請する。そのあと望は雄介の腕を肩に回すと、客席の方へ連れて行き、まずは止血と応急処置をする。
それから暫くして救急車が到着すると、操縦士や副操縦士も救急車へと運ばれ、望も雄介と一緒に病院へ向かう。
望は病院には付いてきたものの、ここは自分の病院ではない。だから雄介の手術にも処置にも関与できない状態である。望はその病院のロビーで雄介の処置や手術が終わるのを一人で待たなければならない。
夜のロビーは本当に静かだ。昼間は患者さんで賑わっているのだが、本当に誰もいない。そして暗い。それだからなのか、いやに怖く感じる。普段、当直でいる時の病院は特に怖いと感じたことはない望だが、こう独りぼっちで待たされていると怖いのかもしれない。そして今は治療を待つ関係者の気持ちなのだろう。
だが、この静かな空間で思い出されるのはさっきのハイジャックのことだ。