望は和也へとカーソルを合わせ、和也に電話してみることにした。
最近はまったく和也とは連絡を取っていなかったため、自分のリダイヤルにはなかったが、着信履歴の方には和也からの履歴が何回も残っていた。
しばらくのコール音の後、慌てたような声が聞こえ、望は和也の声に少し安堵した。
『の、望かぁ!? 良かったー! 無事だったみたいでさ……。ゆ、雄介の方は大丈夫なのか?』
望は一呼吸してから答えた。
「俺の方は大丈夫だったんだけどさ……。雄介は確かに乗客全員の命を救ったさ……。だけど、雄介は今怪我して病院で処置を受けているところだ。しかも、まだ処置室から出てくる気配がないんだよな」
『そっか……。まぁ、あれだけの事件で二人が無事そうなら安心できたかな? そういや、雄介が大活躍だったそうじゃねぇか』
「え? あ、まぁな……」
望は一言だけ答えた。
今はとりあえず和也に連絡ができたことで、心の中の緊張が少し解れてきているのかもしれない。
もう自分の中で今にも崩れてしまいそうだ。
今までは強い自分でいられたが、雄介という恋人ができてからは心が弱くなっているのかもしれない。和也との電話で一安心している自分がいるようで、瞳には涙が溢れていた。
男が泣くなんて恥ずかしいと思っていたが、瞳から溢れてくる涙は止まらない。
『望? 大丈夫か?』
「あ、ああ……大丈夫だ……」
涙で震えそうな声を必死に押し殺そうとしている望だったが、それが和也には伝わってしまっているようだ。
だが、和也はもう望の性格を分かっている。だから敢えてそこには触れずにいるらしい。
望のことだ。そこでそのことについて言ってしまうと、きっと電話を切ってしまうだろう。とりあえず今は望の気持ちを汲んで通話を切ってほしくはない。