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ー空間ー214

 望は、その苦しい胸をパジャマの上から強く握りしめ、皺ができるほどに力を込めた。兎に角、今は涙をこらえるしかない。


 すると、考え事に没頭していた望は、隣に雄介が立っていることに気付かなかったようだ。


 しかし、次の瞬間、望は人の気配に気付き、慌てた様子でパジャマの袖で涙を拭き、笑顔で雄介の顔を見上げた。


「お前……ここで何してるん?」


 さっきまでの切なそうな雄介から一転し、いつもの笑顔で声を掛けてくる雄介に、望は戸惑いを隠せない。


「あ、ああ……目が覚めたからさ……降りて来たんだ。ただそれだけだ……」


 望は雄介から視線を外すと、いつものように冷静な口調で答えた。


 しかし、雄介は望から視線を外すと、切なそうな表情を浮かべていた。


「あ、ああ! そうだよな! 人間寝たら起きなきゃいけないもんやし、起きて来なけりゃそりゃ逆におかしな事やもんな!」


 そう言いながらも、雄介は微笑んでいる。


「あ! そうそう! 俺、トイレやったんやわぁ」


 と言ったのか、それとも独り言を言ったのかは分からないが、雄介はトイレの方に向かっていた。


 しかし、今日の二人の会話がなぜかギクシャクしている感じがする。これは気のせいだろうか?


 そして、雄介はいきなりトイレへと向かっていた足を止め、


「あ! そうそう! ここ寒いやろ? ほなら、先にリビング行っておいてー! リビングの方暖房入れてあるしな」

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