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ー雪山ー16

 そう、望は照れ臭そうに言うだけだった。


 それに微笑んだ雄介はパソコンの電源を落とすと、ベッドまでそれほど距離がないにも関わらず、望のことをお姫様抱っこして運んでいく。


 そして、雄介は部屋の電気を消すと望のベッドへと入り込む。


 雄介は両腕を枕と頭の下に置き、暗い天井を見上げる。


 今日はもうあれだけ望に拒否されたのだから、望には今日は手を出さないと決め込み、望には一切手を触れないようにしたのかもしれない。だが次の瞬間、雄介の胸辺りで温かいものを感じた。


 それは雄介の胸の辺りを這い、雄介の右脇の辺りで止まる。


 多分、望が雄介の体を抱き締めたということだ。


 その証拠に雄介の左側には望の体が当たっているのだから。


 望の行動に驚いた表情をしている雄介ではあるが、暗くて表情までは分からない。


 今の雄介はきっと胸の鼓動が最高潮になっているのかもしれない。


 こういう時に限って望がこうやって甘えてくるのはズルいと思う。


 今日の雄介は望には触れないと自分の中で宣言しているのだから、本当はこの望の手を今にも振りほどいてしまいたいと思っているのかもしれないが、現実問題、そんなことが出来る訳ではない。


 幸せに感じている一方で、今日の雄介は望のことを抱くことが出来ないのだから、ただただこの状況が辛いだけだ。


 これ以上、好きな相手にキスでもされたら抑えが効かないに決まっている。


 だが望の方は雄介の考えとは裏腹に、更に雄介に密着してくる。挙げ句の果てには雄介のお腹や胸の辺りを撫で回し始めているのではないだろうか。


 さすがの雄介もそんなことをされたら体をピクリとさせてしまうのは当たり前のことだ。


 いや、危うく声も上げそうになっている。


 雄介はその望の行動に我慢できなくなってきたのか、


「ちょ……さっきからなんやねんって……」


 頭の下にあった右手だけを出して、今もまだ雄介のお腹辺りを撫で回している望の手首を掴む。


「……たまには俺がこうしたい時だってあるんだよ」

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