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ー雪山ー53

 望は、雄介の姿に気付くと、今まで雄介のことを見ていたのがバレないように咄嗟に近くにあったリモコンでテレビを点ける。そして、テレビの方へ視線を向けるのだ。


 雄介はそんな望の姿を見ながら洗濯カゴを脱衣所へ持って行き、再びリビングへ戻って来た。


「なんやぁ、望がお笑い番組見るなんて珍しいなぁ」


 そう言いながら、雄介はクスクスと笑っている。


 望は雄介に指摘されて、マジマジとテレビ画面の方へ視線を向けると、雄介の言う通りお笑い番組がかかっていた。


 望はそれに気付いた途端、慌ててチャンネルを回す。


 そんなおかしな行動をする望に、雄介は首を傾げるだけだ。


 望がチャンネルを変えると、大きなスピーカーからはオーケストラの演奏が聴こえてきた。


「望はお笑いよりこっちの方が好きなんか?」

「あ、ああ、まぁな……こっちの方が落ち着くしな」

「ふーん……」


 そう雄介は興味なさそうな返事をすると、


「確かに素敵な音色やと思うねんけどな……こう、ゆっくりめの曲やと眠くなってきてしまうわぁ」

「そんなことじゃあ、一生、クラシックの魅力は分からないだろうな」

「まぁ、そうなのかもしれへんけど、望が好きやったら、好きになれるかもしれへんで」

「じゃあ、好きになってみろよ」

「ほな、望が俺に素で『好きや』って言うてくれたら考えてやってもええで……」


 そう雄介はニヤニヤしながら望に言ったが、望はそんな雄介にため息を吐く。


「そんな、邪な考えがある間はやっぱクラシックの魅力なんて分からねぇままだな」

「そっか……」


 雄介はそうあっさりと答えると、両手を後頭部へ回しソファへ寄りかかる。


 しばらく雄介は望と一緒にクラシックを聞いていたが、やはり飽きてきたらしく、


「ほな、俺は二階の掃除してくるし、ついでに天気もええことやし、布団干してくるなぁ」

「あ、ああ……」


 望はクラシックが掛かっている画面を見ながら返事をするのだ。

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