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ー天使ー95

「桜井さん、昔の雄介はどんな感じだったのですか? 昔の雄介のこと、知りたいのですが……」

「ほらー、雄介の大事な人がそう言ってんだから、話してもいいわよねぇ?」


 望と美里に押されて、仕方なく雄介は溜め息を漏らしながらも、


「もう、ええって……二人にそう言われたら、多数決で俺の負けやんか」


 そう言いながら、諦めたように椅子へと腰を下ろした。


「本当に雄ちゃんはそういうとこ、いいんだか悪いんだか分からないわよねぇ。優しいんだか、意志が弱いんだか……」

「その両方だな」


 望がさらりと突っ込むが、美里はそう簡単に笑い飛ばせる気分ではないようだ。彼女は心配そうに雄介の顔を覗き込んだ。


「ねぇ、雄ちゃん……嫌なら嫌って言った方がいいわよ」

「そう言うねんけどなぁ。俺がハッキリ嫌なことは嫌って言ってまったら、周りがいい感じしないやんかぁ。せやから、俺は周りに任してしまうんやって……」

「確かに、そうなるかもしれないけど、それは雄ちゃんの優しいところでもあるわ。でも、雄ちゃんは男なんだから、相手を引っ張っていってもいいのよ……前にいた彼女にもそれを指摘されたんでしょ? それはいい点でもあり、悪い点でもある。だから、それを上手く使い分けることはできないかしら? 無理に治せとは言わないけど、雄ちゃんは努力できる人なんだから、少しずつ挑戦してみたらどう?」


 美里の言葉に、雄介の表情が少しずつ明るくなる。


「せやな……姉貴の言う通りやな。できないやなくて、努力にしたらええねんな?」


 雄介の前向きな返事に、美里は満足したように頷き、望たちの方へ顔を向けた。


「今日は兄弟の茶番に付き合わせてしまって、すみませんでした。これからも雄ちゃんのこと、よろしくお願いいたしますね」


 そう言って、美里は望たちに向かって丁寧に頭を下げた。


「こちらこそ、雄介には迷惑ばっか掛けてますんで……。雄介にはたくさん助けてもらってますし、お互い様ですよ」


 望は珍しく、美里に向かって柔らかい笑顔を見せた。


「そうですか……ありがとうございます」


 美里が再び頭を下げたその時、ふと話が途切れた。和也が辺りを見回し、何かが足りないことに気付いたようだ。

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