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ー天使ー129

 望はそう答えると、和也と一緒に手術室へと向かった。


 一方、裕二は家族控え室のソファに腰を下ろす。すると彼は口を開き、雄介に語りかけてきた。


「雄介君、本当にありがとう。望の性格をここまで変えてくれるなんて。まさか、あの望がこんなに穏やかになるとは思っていなかったよ」

「あ、いえ……別に、私はそんな……大したことはしていません。ただ、私は……その……望のことを好きになっただけですから」


 雄介は申し訳なさそうに裕二に答える。しかし裕二は微笑みながら続けた。


「きっと望には愛情が足りなかったんだろうね。でも、君が望を愛してくれたことで、彼の寂しさが満たされたんだと思うよ。愛情って目に見えないものだけど、それが彼の心を変えたんだ。結果的に、尖っていた性格も丸くなったんだろう。恥ずかしい話だけど、私は仕事ばかりで、望のことをきちんと見てあげられなかったんだ。気づいたときには、彼はもう大人になっていてね。今さら私が何を言っても、言うことなんて聞かなくなっていた」


 裕二は少し遠い目をして、懐かしむように続けた。


「私がもっと早く父親として愛情を注いでいれば、望はあんな性格にならなかったのかもしれない。でも、今さら後悔しても仕方がないからね。これからも、あの子のことをよろしく頼むよ」

「あ、はい! 分かりました。これからもずっと、望のことを愛し続けます!」


 雄介はそう答え、裕二に笑顔を見せた。


「それを君に伝えたかったんだ。君が望のことを好きになってくれて、本当に良かったよ」

「あ、はい……」


 そう返しながらも、雄介の胸中は複雑だった。望の父親と話をすること自体が少し緊張するうえ、望の年齢を考えれば、本来なら「彼女」や「結婚」の話が出てきてもおかしくはない。それにもかかわらず、裕二は雄介と望の関係をすんなりと受け入れている。


 同性の恋人同士という関係は、世間ではまだ広く認められているわけではない。それでも、裕二は二人の関係に何も反対する様子がない。むしろ歓迎しているようにすら見える。雄介としては、嬉しさと戸惑いが入り混じる感覚だった。


 そんな雄介の気持ちを察したのか、裕二は穏やかに語りかける。


「私は君たちの関係に口を出すつもりはないよ。好きなら、好きで貫けばいい。人にはそれぞれの人生があるんだから、一生を大切に生きることが一番だと思うんだ」

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