望は琉斗の頭を撫でると、雄介と和也に軽くアイコンタクトを送り、美里と琉斗を病室に残して自分たちの部屋へと戻った。
部屋に入るなり、望は珍しく真っ先にソファに体を預け、安堵のため息を漏らす。
「ホンマ、お疲れさんやなぁ」
雄介がソファの隣に腰を下ろしながら、優しく声をかける。
「いや……別に疲れてないさ。いつもと変わらないことをやっただけだからな」
望がさらりと答えると、雄介は笑みを浮かべながら首をかしげる。
「望にとっては当たり前のことかもしれんけど、俺からしたらホンマにすごいことやと思うで」
「そっか……まあ、そうだよな。でも、雄介、お前だっていずれは俺と同じ立場になるんだからな」
「せやな」
雄介は静かに頷くと、望の隣に座ったまま視線を合わせる。
その時、和也がニヤニヤしながら二人の後ろに立ち、口を挟んできた。
「なぁ、望……さっきのことだけどさ、珍しいことしてたよなぁ。琉斗を美里さんのとこに泊まらせるなんてさ」
「別に大した意味はねぇよ。琉斗が今まで我慢してたみたいだったから、今日は特別に許可しただけだよ」
望の素っ気ない返事に、和也は拍子抜けしたような表情を浮かべる。
「あれ? 俺はてっきり、今晩は雄介と二人きりになりたくて、琉斗を美里さんのとこに置いてきたんだと思ってたんだけどなぁ」
その言葉を聞いた途端、望は顔を真っ赤にしてしまう。どうやら和也の言葉が核心を突いたようだ。
「そうかぁ、久しぶりだもんなぁ。雄介と二人きりの夜ってさ。今まで琉斗がずっと一緒だったから、二人きりになる時間なんて全然なかったもんなぁ」
和也がからかうように言うと、望は目をそらしながら反論する。
「あー、もう! 和也、マジでうるさいんだよ! 俺をいじるのは、そろそろやめろ!」
「だってさぁ、今日は裕実が夜勤だから、俺一人なんだもん。だから、望をいじってから帰ろうと思ってさ」
「それって、ただの嫉妬やんか」
「まあ、そうとも言うな」
「開き直るなよ!」
望は呆れた様子で突っ込みを入れながらも、自然と笑みがこぼれる。
美里の容態も安定し、病院内に漂っていた張り詰めた空気はどこかへ消え去った。今、部屋には穏やかで温かい時間が流れている。