目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

ー天使ー145

「せやんな……」

「今だけよ、今だけ。確かに息子だから可愛いんだけど、私はいつまでも琉斗を甘えさせるつもりはないわよ」

「まぁな」


 美里はこれまで雄介の成長を見てきたからだろうか。すでに男の子を育てるための計画がしっかりできているようだ。


「それに、私には旦那がいないから、父親役もやらなきゃならないしね」

「子供育てるのって大変なんやな」

「そうよー! 子供を育てるのは大変なのよー。貴方に琉斗を預けたけど、貴方の場合は琉斗のことを見ているだけで、躾とか何もしてないんでしょ? 悪いことをしたら叱ったり、いいことをしたら褒めてあげたりしなきゃならないのよ」

「だけどなぁ、琉斗はいい子やったし、怒るって言ってもそんなことをしたことなかったしなぁ。それに、他人の子供を叱るって……やってもええもんかと思うんや」

「それは雄ちゃんが優しいからなのかしらね?でも、今度からは叱るべき時にはちゃんと叱ってね。今はまだいいけど、これからは男の子を育てるのは大変なんだから!」

「分かっておるって……」


 雄介はどうやら美里には頭が上がらないらしい。完全に押されてしまっているのが見て取れる。


 そんな中、会場内に音楽が流れてきた。


 その音楽は幼稚園らしい可愛らしいもので、園児たちが音楽に合わせて運動場に入場してくる。


「次はお遊戯みたいだな」


 和也がプログラムを見ながら言う。


「そうやったんかぁ」


 雄介はそう答えると、運動場の方に目を向けた。


 そこに現れたのは琉斗だった。


 音楽に合わせ、一生懸命踊る琉斗の姿に雄介の視線は釘付けになっていた。


 雄介はこれまで琉斗の成長を見てきた。ハイハイができるようになり、一人歩きができるようになったことも知っている。ついこの間までそんなことをしていたと思っていたが、今では体を自由に動かし、一生懸命踊っている。その姿を見つめる雄介の心情は、いつの間にか父親のような視点になっているのかもしれない。


 そんな琉斗の成長を見つめながら、雄介はふと呟いた。


「ホンマ、子供の成長って早いんやな」


 小さな声で呟いたその言葉は、運動場に響く歓声の中に消え、誰の耳にも届くことはなかった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?