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ー決心ー32

「そう言えば、昨日言ったよなぁ? 明日の昼くらいまで俺、帰って来れないからさ」

「ほな、今日は俺が家で一人ってことやな?」

「やっぱり……その……あの……寂しいもんなのか?」


 今の望は、いつもの望だ。こんなこと、素の望であれば聞けるわけがない。


 望はきっと、心臓が爆発しそうなくらいドキドキしながら雄介に向かい聞いているのかもしれない。


「そりゃ、当たり前やんか……」

「……だよな。俺も……その……」

「だから、前から言うてんやろ? 無理して言わなくても今は望のこと分かっとるからな」


 雄介はそう言いながらテーブルの上に朝ご飯を並べ、望の前に座る。そして相変わらずの太陽のような笑みを望に向けた。


「でも、俺は……雄介の前では、素直になれるように努力していることは認めてくれよ」


 今日はどれだけ心臓があっても足りないくらいに、望の心臓は波打っているだろう。


「ああ、大丈夫やって……。俺はどんな望でも好きやしな」

「お、俺だって……好きなんだからな!」


 さすがに望が笑顔で雄介に向かってそう言うことはできなかったが、本当に望は雄介に対して素直に言えるように努力しているようだ。


「ああ。望にそう言ってもらえると、むっちゃ嬉しいわぁ」


 望にとって夜に雄介がいないのは当たり前だったが、今日は逆に望がいない日だ。雄介と付き合い始めて年月が経ち、望がやっと雄介に対して心を開けたこともあるだろう。しかし、望がいない日がほとんどなかったことも、この感情に影響しているのかもしれない。


 後一時間程度で、二人は明日の夕方まで会えない。


 今の二人にとって、一日半も会えないのは辛いことだ。だからこそ、望は雄介に素直な言葉を伝えられたのだろう。


「とりあえず、朝飯食って頑張ろうや!」

「ああ、そうだな」


 二人は朝ご飯を食べ終えると、望はスーツに着替え、雄介は学生らしく前のような制服ではなく私服姿で玄関まで来る。そして、


「望……」


 雄介がただ望の名前を呼んだだけで、望は雄介の方を振り向いた。二人は自然と唇を重ね、家を出る。


 望は雄介のことを駅まで送ると、病院へと向かうのだった。

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