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ー平和ー10

「せやけどな、今はむっちゃ忙しいんやって……今、ゆっくりしたら、勉強が遅れてしまいそうやし。ってか……俺、この職業にホンマ向いてなかったのかもしれへんなぁ。ホンマ、今はただ疲れるだけやし、前の仕事みたいに楽しいって感じはないしな。 あ、いや……楽しいって言うのもおかしいけど……」


「雄介さんじゃないみたいですね。雄介さんが弱音を吐くなんて……前の雄介さんはもっと生き生きしてましたもんね。だけど、今は本当に疲れているみたいです。僕は、今の雄介さんを好きになれません。前の雄介さんの方が逞しく見えましたが、今はそういう風には見えなくなってしまった気がします。魅力がなくなったというのか……。でも、僕が言いたいのは、体の逞しさや魅力のことじゃないんです。心が逞しくなくなったというか、魅力を感じなくなったというか……そんなことを言いたいんですよ。それで、勉強に煮詰まっているように見えますけど……もしそうなら、たまには勉強を忘れて、気分転換してみたらどうですか? そうすれば、少しは気分も変わるかもしれませんよ。体も休ませてあげてください。最近、望さんとも全然話してないみたいですし……望さんも寂しがってましたよ」


「せやけど、望やって忙しそうにしてるし、邪魔したらアカンと思ってたんや……」


「雄介さんは、望さんにそう思っていたのですね。二人ともお互いに優し過ぎますよ。お互いを気遣う気持ちは分かりますけど、それが逆に相手を遠ざけてしまっているんです。同じ屋根の下で暮らしているからこそ、お互い安心して、相手の気持ちを察して声をかけない。でも、それは良いことじゃないと思いますよ。それでは、恋人であって恋人ではないっていうか……」


 裕実の言葉は、優しさの中に厳しさがあり、雄介にとってはかなり刺さるものだった。その言葉に、雄介は裕実を見上げて少し黙った後、ゆっくりと答える。


「せやな、裕実の言う通りや……たまには気分転換せなアカンな。望と久しぶりに話してみるわ」


 雄介は椅子から立ち上がり、体を伸ばすと、裕実と一緒にリビングへ向かう。久しぶりに望と目を合わせたとき、二人は何だか言葉が出ないような感じだった。お互い、どこか気まずく、でもその気まずさが、二人の心の距離を物語っているかのようだった。

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