そう言うと、望は裕実の見えないところで軽く微笑み、机から立ち上がり、
「丁度、仕事も終わったし、後は雄介にメールして、焼き肉屋に来るように連絡しておくよ」
「分かりました。って、雄介さん、焼き肉屋までどうやって来るんですか?」
望は軽く鼻で笑うと、
「裕実って、案外面白いんだな。それとも、雄介のことを心配してくれているのか?」
「……へ? あ、そういう訳ではないんですけど……」
自分の質問を思い返し、顔を赤くする裕実。
「雄介なら大丈夫だよ。焼き肉屋ぐらいの距離なら、走って来ると思うぜ」
「そうですよね? 望さん家からなら、歩いて十五分くらいの距離ですものね」
「そういうこと。雄介が最近、運動不足だって嘆いていたから、雄介一人で走って来るのもいいんじゃね?」
「分かりました! では、僕は和也と一緒に和也の車に乗って行きますね」
「分かった……」
裕実は望との会話を終え、和也の方へ笑顔を向ける。和也は、二人が会話している間に着替えを済ませてきたのか、私服姿でソファに寛いでいた。
望も着替えを終え、雄介にメールを送ったところ、勉強していて夕飯がまだだということで、焼き肉屋で待ち合わせすることになった。
望たちが車に乗り、焼き肉屋に着いた頃には、ちょうど雄介も着いたようで、駐車場で待っている姿が見えてくる。
望が車から降りると、雄介が望たちの傍まで駆け寄り、みんなで焼き肉屋へと入って行った。
注文を済ませると、最初に言葉を発したのは和也だった。
「なぁ、雄介。望って、歩夢以外にも兄弟がいるってこと知ってたか?」
「……へ? そうだったん?」
雄介は和也のその言葉に目を丸くし、驚きの声を上げる。
「ああ。ってことは、やっぱり知らなかったよな?」
「知らんかったな」
「とりあえずさぁ。もしかしたら、望が双子の弟のことを思い出せなかったのは、前に望が記憶喪失になったことがあっただろ? それのせいかもしれないしさ。それで、今日、その望の双子の弟に会ったんだよ。望の弟の名前は朔望って言うんだけどさぁ。本当に望にそっくりで、眼鏡があるかないかぐらいしか判別がつかないくらいそっくりだったんだぜ。初め、俺は望のドッペルゲンガーだと思ったくらいに朔望は望にそっくりだった訳」