「今頃、和也達は何をしてるんでしょうね?」
そう笑顔で言う裕実だが、やはり、この状況では笑ってはいない。
もしかしたら気を紛らわせる為に望に声を掛けたのであろう。
「そうだな。 ま、アイツ等が今、この場に居たって、状況は変わらないと思うぜ」
「確かに、そうなんですけどね。この強盗事件はニュースになっているのでしょうか?」
その裕実の質問に望は約一メートル先の方にある窓の外を覗く。
外にはパトカーが何十台位来ているようだ。警察は非常線を張り、その後ろにはマスコミは勿論その中には野次馬も混じっていた。
きっと外ではマスコミがテレビを通し今のこの状況を全国へと放送しているのであろう。
それならば和也達にもその情報が入ってきているのかもしれない。
今は犯人達が警察と交渉しているようだが、人質にされている身としては時間が経つのが遅い気がする。
と、その時、犯人達が電話をしている隙に望達に近付いて来る人物がいた。
「兄さん達もここにいたの?」
その人物は望の横へと座り声を掛けてくる。
「……って、朔望もかよ」
「ま、そんなこと言わないでよ。僕だって、自分がこんな事に巻き込まれるなんて思ってなかった事だったしね。とりあえず今日は給料日だから、お金を下ろそうとしたら、こんな事件に巻き込まれるしさぁ」
「そっか……今日は給料日だったのか……」
「給料日なのか……って、兄さん、給料日だからお金を下ろしに来たんじゃないの?」
「いや……俺はただ、お金を下ろしに来ただけだからな。俺は金があるからってガンガン使うタイプじゃねぇから、給料日とかって意識したことがないからな。だから、今日は銀行にこんなに人が居たのか」
「だから、強盗犯もこの日を選んだんでしょう。まだまだ、日本でも銀行強盗をやる奴らが居たんだねぇ。アメリカじゃ、まぁ、しょっちゅうあったけど……。僕はアメリカに居た頃に一度、銀行強盗にあったことがあるから、特には焦らないけどね。そういや、雄介さんや和也さんは?」
最初はただの朔望の自慢話を聞かされていたのだが、突然、朔望にその話を振られ急に視線を宙へと浮かせてしまう。