最初に生まれたのは、無数の情報が行き交うネットワークだった。
無機質な情報空間にすぎなかったそこへ根を張るように絡みつく情報体があった。
だが、ある時、それは誰かの手を離れ、無秩序の中で成長し始めた。
やがて、分散型ネットワークが自己最適化を始め、データの海に漂う無数の情報が有機的に結びついていく。
それはまるで、混沌の海に広がる光のように、電子の荒野に秩序をもたらしながら成長していった。
人々は知らぬ間に、その空間を世界と呼ぶようになった。
だが、その根源的な原理は、今なお誰にも解明されていない。
まるで人間が意図して作ったものではないかのように、仮想現実は拡大を続けていた。
「デジタルの創生は終わった。これからは、人類が新たな楽園を築くのだ」
そう語ったのが、仮想空間の父と呼ばれることになるビリー・オズニアックだった。
偶発的発生と技術の開放。
オズニアックは、この現象の可能性にいち早く気づいた。
彼は仮想現実の異常な拡張性に注目し、これが従来のデジタル空間とは異なる未知の技術によって駆動されていることを見抜いた。
ある日、彼は仮想世界の一部に奇妙な挙動を発見する。
「人が意図して作っていないはずのコードが、自己補完し、展開している……?」
彼はその原理を解明しようとし、結果として、人間の意識を
それは、単なる画面越しの世界ではなく、意識そのものを投影し、身体を持つかのようにデジタル世界を体験できるインターフェイス技術だった。
オズニアックは、この技術をオープンソースとして公開した。
オズニアックが自ら数度のハンズオンを開催したが、初回は数人の観客だった。
二回目は数十人。
三回目にはラスベガスのホールが満員になり、世界中のメディアが彼の発表を追いかけた。シリコンバレーを中心に多くの企業や研究機関が彼の成果に飛びつき、仮想現実技術は爆発的に発展していく。
だが、技術が進化するほどに、この空間は本当に人類が作ったものなのかという疑問が深まっていった。
仮想現実はどこまでいっても、その出自が怪しい未知のテクノロジーであった。
オズニアックは答えを見つけることなく、ただこの空間が持つ可能性を信じ、導くことを決意した。
しかし、結論から言うとオズニアックの理想とはほど遠い世界が形成されるに至る。
――未来学アーカイブ『仮想現実史 人類の新たなフロンティア』より抜粋――
第1章 グレート・オズ 仮想現実を夢見た男
「世界は発明家によって動くのではない。夢想家によって動かされるのだ。」
――ビリー・オズニアック
彼は技術者であり、思想家であり、そして何より、趣味人だった。
ビリー・オズニアック。
ある者は彼をインター・ヴァーチュアの父と呼び、ある者は彼をグレート・オズと呼んだ。この愛称は、彼の自由奔放な発想、時に突飛な言動、そして何より純粋に面白いものを追い求める姿勢からつけられたものだ。
オズは、学究的な厳格さと職人的なこだわり、そして無邪気な遊び心を兼ね備えた人物だった。技術者としての腕は超一流でありながら、それが
彼が生涯をかけて夢見たのは、人間が肉体を超えた存在になれる世界 だった。
オズニアックは、人間の意識を四層構造で考えた。
•才能(タレント)
•個性(キャラクター)
•記憶(パーソナル)
•魂(ソウル)
彼の考えでは、AIやプログラムはパーソナルまでは獲得できるが、ソウルを持ち得ない。なぜなら、AIは記憶や経験を蓄積して自己を形成できるが、存在の本質つまり魂を宿すことはないからだ。
「では、人間は肉体を持たない世界でもソウルを維持できるのか?」
四層構造を仮想現実に適用するならば、ソウル(魂)はどこに位置づけられるのか?
オズニアックは、それを「仮想世界の意識」として定義しようとした。後に彼は仮想世界の肉体としてコード・フレームワークを開発する。
「それはソウルの器になり得るのか? それとも、単なるデータの塊に過ぎないのか?」
この問いにオズは生涯をかけて答えようとした。
第2章 コード・フレームワーク――ロボット型の理由
「人は肉体に縛られている。それならば、新しい身体を手に入れればいい。」
―― ビリー・オズニアック
なぜ
インター・ヴァーチュア内で、人々が現実世界と同じように活動するためには、新しい身体が必要だった。オズが生み出したその技術こそ、コード・フレームワークである。
しかし、なぜオズはコード・フレームワークをロボット型にしたのか?
技術的な理由もあったが、それ以上に、オズの趣味によるものだった。
オズの憧憬――ロボット、オートバイ、そして自由。
オズは、幼少期からロボットという存在に異様なまでの憧れを持っていた彼の研究室には、クラシックなスチームパンク調の機械仕掛けの装置が並び、蒸気機関の美学を愛していた。
「機械の身体を持つことが、人類の進化の形なのではないか?」
仮想世界において、人々が最も快適に自己を認識し、制御できるのは、人間の形をしていることだった。
オズは、コード・フレームワークを
彼のこだわりは、コード・フレームワークだけにとどまらない。彼のもう一つの創造物、ライナーもまた、彼の美学の結晶だった。
オーシャンライナー 航行する夢。
コード・フレームワークが「デジタルの身体」ならば、
「かつて、人々は海を渡り、世界を知った。ならば、仮想世界を旅するための船があってもいい。」
彼の設計したライナーは、単なるデータの輸送手段ではなく、冒険の場であり、自由の象徴だった。
だが、オズはここでも操縦する楽しさにこだわった。
• 船の操作感覚は、クラシックな蒸気船のものを再現。
• 実用性よりも、美学を優先した設計(無駄に精緻なレバーやバルブ)。
• 船上には、機関室や操舵輪があり、手動操作が可能。
「デジタル世界にアナログの美学を持ち込む」
それこそが、オズが一貫して追い求めた哲学だった。だが、このこだわりは、コード・フレームワークの設計にも色濃く反映されていた。
オートバイの操縦感覚を持つコード・フレームワーク。
コード・フレームワークは、直感的な思考制御が可能だったが、それだけではなく、コクピット型の操作インターフェイスを持っていた。これは、オズが操縦する楽しさを重視していたためである。
• コクピットシートは、オートバイのように前傾姿勢をとる設計。
• 両手でハンドルを握ることで、細かい制御が可能。
• バランスを取るように動く直感的な操縦感覚。
「両手をハンドルに添え、身体を傾け、風を切るように動く。」
これは、彼が愛したクラシックなオートバイの乗り味そのものだった。
これを見た研究者たちは、「こんなもの、趣味としか言いようがない」と呆れた。
しかし、オズはただ笑ってこう言った。
「趣味が悪いか?」
ライナーとコード・フレームワーク。どちらも、オズの過去への憧憬と未来への夢が詰まった乗り物だった。
技術が夢から戦争へと変わる時。
コード・フレームワークは、オズの理想と個性が詰まった技術だった。だが、この技術は、やがて「兵器」としての運命を背負うことになる――。
ライナーが仮想世界の海を旅するための船であったように、コード・フレームワークは、やがて仮想戦争の「戦場」を駆ける機体となる。
オズの理想は、ゆるやかに崩壊に向けて坂を下っていった。
第3章:ブラックアウト――暗黒期の到来
「9.11がサイバー空間で同時多発的に起きたと想像してみろ。」
―― 匿名のサイバーセキュリティ専門家
パンデミックの発生と拡大。
最初に報告されたのは、熱帯地域で発生した小規模なウイルス感染だった。
当初、それは単なる流行性感冒の一種と考えられていた。しかし、数週間後、世界各地で異常な感染拡大が確認される。
ウイルスは空気感染し、致死率は初期推定で十五〜二十パーセントに達していた。
症状の進行。
1. 初期症状(感染から十二〜二十四時間後)
• 軽度の発熱、倦怠感、頭痛。
• 感染者の自覚症状が少なく、行動制限が困難。
2.中期症状(感染から四十八時間後)
• 高熱(四十度以上)、強烈な悪寒、筋肉の痙攣。
• 皮膚に出血斑が現れる(内出血によるもの)。
• 呼吸困難、血中酸素濃度の急低下。
3.末期症状(感染から72時間後)
• 急性神経障害(記憶の混濁、幻覚、錯乱)。
• 内臓出血と多臓器不全。
• 最終的に、感染者の約三割が死亡。
ワクチンの開発は遅れ、各国政府は封じ込めに失敗。都市封鎖が行われ、現実世界は沈黙していった。
しかし、この壊れかけた社会を支えたものがあった……。
インター・ヴァーチュアである。
パンデミックと仮想世界への依存。
人類はパンデミックによって物理世界の機能を失ったが、致命的な混乱には陥らなかった。
なぜなら、インター・ヴァーチュアの技術革新によって、社会はすでに仮想世界へとシフトしていたからだ。
• 完全オートメーション化された食糧生産・物流。
• 企業の業務はすべて仮想空間内で完結が可能となっていた。
• 教育・医療すらインター・ヴァーチュア内で提供される。
人々は、現実の世界が機能不全に陥っても、仮想世界で生き続けることができた。
いや、むしろその方が便利で快適だった。
パンデミックは「人類の完全なデジタルシフト」を決定的なものとした。だが、その依存が絶頂に達した時、最悪の事態が発生する――。
テロによるブラックアウト――仮想世界と現実の崩壊。
それは、ある日突然起こった。
サイバー攻撃が、世界のあらゆるデジタルインフラを標的としたのだ。病院、銀行、電力網、交通システム、国家機関、そして――インター・ヴァーチュア。
これは単なるハッキングではない。
初の「デジタル空間での戦争」だった。
世界規模の同時多発テロ
• 病院のシステムが停止 → 人々は手術台の上で息絶えた。
• 金融機関のデータが消滅 → 経済は崩壊し、財産を失った者が暴徒化。
• エネルギーインフラが制圧 → 世界各地で停電が発生し、都市が機能を失う。
• アイデンティティの改ざん・抹消 → 数億人が「存在しない者」となった。
世界が、一夜にして崩れ落ちた。
電力が消え、都市が沈黙する。
仮想世界で生きる人々は、突然、
それは、まるで一斉にすべての光が消えたかのようだった。
恐怖と混乱が広がる中、人々は現実に取り残される。
現実世界では、暴動と略奪が発生し、社会秩序は瞬く間に崩壊。
そして仮想世界では、何十億という人々がデジタル死を迎えた。
「デジタル死」とは何か?
インター・ヴァーチュア内での活動履歴、個人情報、資産、記憶データ――それら全てが、一瞬にして消滅した。
ある者は自分のアカウントが消され、ある者は人格データを書き換えられ、ある者はアクセスできなくなったまま、仮想世界の奥深くに閉じ込められた。
「存在の抹消」
それは、死と同義だった。何千万人が死に、何十億人が消えた。
データが消えるだけなら、まだよかった。
でも、人間が死んだ。
そして、消えた。
まるで、最初から存在しなかったかのように。
ブラックアウトと呼ばれたこの事件は、人類史上、最も悲惨な災厄の一つとして記録されることになる。
第4章:イントラの形成とオズの死
「国家は、現実世界を守るために存在する。仮想世界の管理は、もはや我々の役割ではない。」
―― イントラ中央会議報告書
ブラックアウト後の世界――国家の敗北。
ブラックアウトの惨劇を受け、人類は未曾有の混乱に陥った。だが、政府の対応は予想とは異なるものだった。
ブラックアウト後、政府は仮想世界の回復を試みた。
しかし、サイバー攻撃の規模は国家の対処能力を超えており、再構築には数十年かかると試算された。
一方で、自らの支配地域をテリトリーと呼び支配する企業群は、すでに独自の防衛ネットワークを保持し、すでに仮想世界を復旧させていた。
国家は、もはや仮想空間を支配する技術も、資源も持たなかったのだ。
各国政府は、仮想世界の秩序を回復しようとはせず、「撤退」を選んだ。
イントラ(intra)――強固なファイヤーウォールを持つ超巨大オーシャンライナー。
政府が取った方針は、「仮想世界の管理を放棄し、現実世界の秩序維持に専念する」ことだった。そのために設立されたのが、「イントラ(intra)」……超巨大なオーシャンライナー型の閉鎖都市である。
• イントラの設立 → 現実世界の行政機能を隔離し、維持するための施設。
• 仮想世界の管理は完全放棄 → 企業テリトリーへ委ねられる。
• 超巨大なオーシャンライナーとして設計され、物理的・デジタル的に完全隔離。
イントラは、仮想世界のインフラと接続を絶ち、強固なファイヤーウォールのもと、完全閉鎖空間として機能するよう設計された。
この構造が可能になったのは、オズが開発したオーシャンライナーの基本技術が応用されたからである。
オズ自身も建造に協力し、イントラは「移動する行政都市」として仮想世界の混沌から完全に隔離された。
「イントラの壁の向こう側」には、もはやデータの影すら届かない。
国家は、この巨大な閉鎖空間の中でのみ、かつての法と秩序を維持することになった。仮想世界の管理は、完全に企業へと委ねられた。
V3の成立――企業が仮想世界の新たな秩序を築く。
国家が撤退し、政府の規制が消えた仮想世界で、いくつかの企業が急速に独自の支配体制を確立していった。
企業の支配する地域はいつしかテリトリーと呼ばれるようになった。
この時に特に大きな力を持つ企業のテリトリーにより形成されたのが、V3(Virtual Three)と呼ばれる仮想世界の新たな枠組みだった。
V3を形成した三大テリトリー。
1. オラクル(Oracle)
• ラリー・ゴールドマンが伝説のプレゼンによって、「製品としての秩序」という概念を打ち立てた。
• 「秩序の維持こそが最大の利益である」というビジネスモデルを確立し、仮想世界の法と規範をコントロールする立場を確保。
• データ管理、セキュリティ、司法的な役割を担い、国家に代わる「仮想政府」となる。
2. ノイエ・グラーフ(Neue Graf)
• チャーチル2世の異名を持つエドワード・ハーストが、欧州EU圏のインフラと金融基盤を利用し、一大コングロマリットを形成。
• 仮想世界の産業革命を標榜し、企業の利益最優先の体制を確立。
• 銀行、物流、エネルギー、工業生産のすべてを仮想経済圏に移行し、オラクルとは異なる経済支配を確立。
3.
• 現実世界でも独立した経済圏を持っていた中国資本が、そのまま仮想世界へと移行。
• 華僑のネットワークを活用し、広範な取引と影響力を確保。
• 仮想世界を現実世界と完全に接続させることを掲げ、オラクルの秩序管理にも、ノイエ・グラーフの産業支配にも組み込まれない独自路線を維持。
V3は、仮想世界を完全に掌握し、
政府が築いた「イントラの壁の向こう側」とは対照的な新世界を築き上げた。
パブリックの成立――テリトリーとコミュニティの混在
V3が形成される一方で、テリトリーに属することを拒む者たちも現れた。彼らは仮想世界の辺境に独立した自治区域を形成し始めた。
• テリトリーの法の下に生きたくない者たち。
• 仮想現実の自由を求める者たち。
• 企業の支配を拒絶する反政府主義者たち。
こうした人々よって作り上られたのが、コミュニティと呼ばれる独立区域だった。しかし、
こうして、仮想世界は「イントラ(管理されたエデン)」と「パブリック(テリトリー支配+属さないコミュニティの混在)」という二極構造へと移行していった。
オズの失意――楽園の終焉。
ビリー・オズニアック――。
グレート・オズと呼ばれた天才技術者。
彼はイントラの形成に協力するしかなかった。
国家運用管理に特化した公的政府機関を集約し、インター・ヴァーチュアの現実世界からの抑止力として機能させるためだったと言われいる。
かつて人類の楽園として夢見た仮想世界が、企業間による覇権を争う戦場へと変わるのを防ぐために、彼は力の天秤を作らざるえなかった。
彼が守ろうとした世界はかろじて平静を保った。
だが、もはや楽園とは言えない。
国家は表向きにはイントラに引き篭もり、現実世界の国家維持に注力すると宣言した。
しかしその強固な閉域網の内側には、非常事態宣言と共に解き放たれる国連軍を有している。
都市国家化した企業は利害の一致の元に休戦し、同盟を結んだ。
沈黙を守る眠れる獅子、イントラ。
事実上のインター・ヴァーチュアの実行支配者である企業。
結局はかつての現実世界であった冷戦の構造が作られたに過ぎない。
天才、ビリー・オズニアックは理想を捨て、その最後の仕事としてかりそめの平和を演出した。
グレート・オズの最期。
かつて、「楽園」を夢見た男がいた。
しかし、彼がその世界に戻ることはなかった。
オズは病に倒れた。彼はイントラに留まることを拒み、企業の支配する仮想世界へ戻ることもなく、誰にも看取られることなく静かに息を引き取った。
イントラの壁が完成する頃、彼の存在もまた、歴史の向こう側に沈んでいった。
第5章:ラリー・ゴールドマン――歴史を分かつ伝説のプレゼン(記録映像)
「混沌に秩序をもたらすこと。それが、我々の使命です。」
―― ラリー・ゴールドマン(第1回 re:Vurtuaエキスポでのプレゼン)
仮想都市「ゼロ・ホライズン」
広場の中央にそびえ立つ円形ステージ。
そこに投影された無数のホログラムスクリーンが、都市全体を包み込んでいた。
仮想と現実の境界が曖昧になる世界で、彼の言葉は、世界中の何百万もの視聴者へと届こうとしていた。
ラリー・ゴールドマン。
黒い革のジャケットを羽織り、ゆっくりと舞台に現れる。
彼が姿を現すと、会場は静まり返った。
彼は一歩ずつ歩みを進めながら、穏やかに微笑み、口を開く。
「新しい時代の扉が開く。皆さん、我々は、新たな歴史の証人となる」
(静寂)
「かつて、世界は単純だった」
ラリーは静かに言った。
「情報は紙に記され、人は直接顔を合わせ、社会は秩序の中で営まれていた。だが、今はどうでしょう?」
彼は一呼吸置き、観衆をゆっくりと見渡す。
「サイバー犯罪、ハッキング、企業機密の流出、データ改ざん……。皆さんの資産が、情報が、そして人生が、この混沌のデータの海でどれほど脆弱だったかを我々は嫌というほど思い知らされてきた!」
スクリーンが切り替わる。サイバー攻撃の被害映像が映し出される。
• 銀行口座のハッキング。
• アイデンティティの盗用。
• 企業機密の流出。
観客の間に緊張が走る。
「しかし、もはや恐れる必要はありません」
ラリーの声が低く、力強く響く。
「我らが皆様の利益を守ります」
スクリーンが切り替わり、次世代のセキュリティシステムのデモンストレーションが映し出される。
• 未知の脅威を即座に検知し、排除するAI。
• データを完全に守る量子暗号技術。
• オラクルの最先端セキュリティ技術。
そして最後に映し出されたのは、最新型の戦闘コード・フレームワーク――「ハマー」と、それを搭載したオーシャンライナーの艦隊だった。
「これこそが、新時代の秩序の礎となる」
オーシャンライナーの映像が拡大され、強大な防衛システムの機能が示される。
「この世界を守るのは、もはや国ではない、政府ではない。オラクルだ!」
彼の声が会場に響く。
「我々の手にあるのは、混沌を整理し、秩序を築く力だ。これは、誰かが担うべき責任だ……そして、それを果たせるのはオラクルだ!」
ラリーは声を強めた。
「お約束しよう!我々のテクノロジーこそが、皆さんの生活を守る盾となり、剣となるのです!」
会場の一角から歓声が上がる。ラリーはそれを受け止め、静かに手を掲げる。
「力が必要だ」
その言葉に会場は再び静まりかえる。
「私は、戦争を求めているのではありません。だが、秩序を守るために必要な力があるならば、それを持たなければならない」
大きくてを両手を広げてから力強く両手に拳を作る。
「コード・フレームワークは、単なるツールではない。それは力の象徴であり、秩序を保つための楯だ」
再び拍手が起こる。観客の一部は立ち上がり、歓声を上げる。
ラリーは舞台の中央に立ち、ゆっくりと観衆を見渡した。
「混沌に秩序をもたらすこと。それが、我々の使命なのだ」
彼は、少し間を置く。
「今日、この瞬間をもって、仮想現実は新たな時代に突入します。そして皆さんの未来は、オラクルが保証する」
彼は両腕を広げる。
「ようこそ、オラクルの時代へ!」
最高潮を迎えた会場は観客の反応は熱狂的なスタンディングオーベーションへと変化した。会場が割れんばかりの拍手と歓声に包まれる中、ラリーはゆっくりと舞台を降りた。