目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
先輩は私のもの
先輩は私のもの
高見もや
恋愛スクールラブ
2025年05月27日
公開日
6,576字
完結済
文化祭の準備中、結城先輩がクラスメイトの女子と仲良く話しているのを見て、ひよりの中に「怒り」と「不安」が芽生える。 その夜、ひよりはSNSでその女子のアカウントを特定し、裏垢で嫌がらせを始める。

第1話

先輩の声がするだけで、今日が“いい日”になる。


わたしの名前は白石ひより。高校一年、文芸部所属。好きなものは、甘いお菓子と、お昼寝と、結城先輩。


文芸部に入った理由? もちろん、先輩がいるからに決まってるよ。


春に入学して、部活見学で初めて先輩を見たとき――目が合った瞬間、時間が止まった気がしたんだ。本当に。ドキュメンタリーとかでよく言うやつ、アレ。


……え? 恋だったかって?


ううん、違うよ。そんな普通の言葉じゃ足りないの。


これはね、運命なの。もっと深くて、もっと強くて、もっとずっと、消えないやつ。


だって先輩、わたしのお兄ちゃんに似てるんだもん。

……ううん、正確には“似てた”んだもん。


あの人はもういないけど、先輩がいるから、もう大丈夫。わたしは寂しくない。


だから、わたしだけの先輩でいてくれたら、それでいいのに。


……なのに、さっき――


「結城くんってさ、ほんと優しいよね~♡」

「今度、放課後空いてる?」


そんな声が聞こえてきた。廊下の向こうで、先輩が女子に囲まれて笑ってるの。


やだ、胸が、ぎゅってなる。わたしの、わたしだけの先輩なのに。


あの子の名前は……えっと、たしか……。


――ふふ。あとで調べようっと。


文芸部の文化祭展示は、「部誌の配布」と「朗読会」。

正直、地味って思われがちだけど――わたしはこの準備の時間が大好き。


だって、ずっと先輩と一緒にいられるんだもん。


「ひよりちゃん、こっちの原稿コピーお願いしていい?」


「はぁいっ♡」


先輩が私の名前を呼んで、お願いしてくれる。それだけで、脳の奥がとろけそうになる。


先輩の頼みなら、紙を100枚でも1000枚でもコピーしてみせるし、夜中までだって残業するよ。

……あ、でもそれは先生に怒られちゃうかな?


機械室でコピーを取りながら、ちらっと文芸部の教室を振り返ると、先輩が誰かと笑いながら話してるのが見えた。


また、あの子だ。高瀬ユナ。クラスは2年C組。校内ではちょっと有名な読モ系女子。


「結城くん、こういう雰囲気、好きそうだよね〜♡」

「へえ、意外とそういうのも読むんだ。ギャップ萌え~」


……また笑ってる。あんな風に、わたしの知らない顔で。


指先がじんわり熱くなる。

コピーのボタンを押す手に、力が入る。カチッ。ガガガッ。

少し曲がった紙が出てきて、あわてて直した。だめだ、落ち着かなきゃ。


大丈夫。まだ“なにか”をしたわけじゃない。

ユナさんが先輩のことを好きかもしれないって、思っただけ。


だけど。


このまま放っておいたら、あの子、先輩に告白するかも。

先輩がうなずいちゃうかも。

付き合ったら――笑い合って、手をつないで、キスとか、したりして……。


やだやだやだやだやだ。


ダメ。そんなの、わたしが壊れちゃう。


紙をそっと重ねて、スマホを取り出す。


「……高瀬ユナ。Instagram、っと……あ、あった。ふふ……鍵、かかってないんだ」


思わず笑みがこぼれる。

アイコン、かわいい。彼氏いませんアピール、あざといなあ。

ストーリー、さっき更新してる。『ぶんげーぶ、だりぃ。眠い。』だって。


……眠れなくしてあげようかな。


夜。部屋の明かりを落として、ベッドに寝転がりながらスマホを眺める。


先輩とのツーショット――ではないけど、部活中にたまたま隣にいた写真。

それを拡大して、指でなぞって、そっと保存する。

でも、今夜の“お楽しみ”はそれじゃない。


今日は、もうひとつ、大事な作業があるの。


インスタを開いて、高瀬ユナのページをチェック。

さっきのストーリーはもう消えてた。でも、投稿はたくさんある。

自撮り、カフェ、部活の写真……

あ、これ先輩と一緒に写ってるじゃん。文化祭準備中ってタグつけて。


ねえユナさん、それ、誰の許可取って載せてるの?


ふふっ。

さっそく、作ったばかりの“裏アカ”でコメントしてみる。


「その男子、彼女いるよ。浮気されてるって知らないのかな?」


数分して、ユナのストーリーが更新される。

「なんか変なDMきたw 怖。誰か特定した?」


あはは、気づいてないんだ。まだ、ただの冗談だと思ってる。


でもね、ユナさん。

わたし、本気なんだよ?


次は、ユナのフォロワーリストから、男の子の名前を適当に拾って――


「○○くんに先輩と歩いてたの見られてたよ。気をつけた方がいいよ?」


DMは送信済み。すぐ既読がついた。


……あれ? ブロックされた。


そっか、ふーん……ブロック、かぁ……。


ベッドの上でごろりと寝返りをうって、スマホを胸に抱きしめる。


ねえ、先輩。

どうしてあんな子に笑いかけるの?

わたしが、いちばん、近くにいるのに。


もうちょっとだけ、ちゃんと見てほしいな。


あの子がどれだけ“邪魔”か、気づいてもらえるように。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?