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第12話

 それから四月に入り、うちの不動産屋にも新人が入ってきた。


 すると、その中に、僕と今付き合っている惺(せい)の姿があった。


 一瞬、自分の目を疑ったけれど――


「北山惺です。今日からよろしくお願いします」


 そう頭を下げる惺は、間違いなく僕の恋人・惺だった。


 けれど、童顔の惺にはスーツがまるで学生服に見えてしまう。見た目が可愛すぎて、完全に“学生”にしか見えないのだ。


 ……そう。僕からしてみれば、いろんな意味で視線のやり場に困ってしまう。


 まさか惺が、この会社に入ってくるとは思ってもみなかった。というか、そもそも惺の仕事について何も聞いていなかった。

 惺とは、たぶん五日間くらい一緒に過ごしたはずだけど――まあ、その間はイチャイチャしたりラブラブなことをしたり、話すことよりもそっちがメインだったわけで……仕方がないと言えば仕方がない。


 付き合いたてだったから、世間話よりも“触れ合い”が優先されていたのかもしれない。


 これからは、仕事でも惺と一緒になる。しかも、しばらくの間は僕と組むことになっている。


 つまり、仕事でもプライベートでも、僕と惺はセットになるというわけだ。


 ただし、仕事場では僕が教育係。

 つまり、僕が“上司”で惺が“部下”。

 一方で、プライベートでは僕が“下”で惺が“上”という関係。


 僕たちの関係は、まだ始まったばかり。

 この先、どうなるのかはまだ分からない。


 ――そして、ふと思い出したことがある。


 ウチに物件を探しに来たとき、惺は「御手洗さんが住んでるマンションかアパートがいい」って言ってたんだっけ。


 今になって、ようやく気づいた。


 同じマンションに住めば、職場にも通いやすくなる。


 ……なるほど、納得。


END


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