それから四月に入り、うちの不動産屋にも新人が入ってきた。
すると、その中に、僕と今付き合っている惺(せい)の姿があった。
一瞬、自分の目を疑ったけれど――
「北山惺です。今日からよろしくお願いします」
そう頭を下げる惺は、間違いなく僕の恋人・惺だった。
けれど、童顔の惺にはスーツがまるで学生服に見えてしまう。見た目が可愛すぎて、完全に“学生”にしか見えないのだ。
……そう。僕からしてみれば、いろんな意味で視線のやり場に困ってしまう。
まさか惺が、この会社に入ってくるとは思ってもみなかった。というか、そもそも惺の仕事について何も聞いていなかった。
惺とは、たぶん五日間くらい一緒に過ごしたはずだけど――まあ、その間はイチャイチャしたりラブラブなことをしたり、話すことよりもそっちがメインだったわけで……仕方がないと言えば仕方がない。
付き合いたてだったから、世間話よりも“触れ合い”が優先されていたのかもしれない。
これからは、仕事でも惺と一緒になる。しかも、しばらくの間は僕と組むことになっている。
つまり、仕事でもプライベートでも、僕と惺はセットになるというわけだ。
ただし、仕事場では僕が教育係。
つまり、僕が“上司”で惺が“部下”。
一方で、プライベートでは僕が“下”で惺が“上”という関係。
僕たちの関係は、まだ始まったばかり。
この先、どうなるのかはまだ分からない。
――そして、ふと思い出したことがある。
ウチに物件を探しに来たとき、惺は「御手洗さんが住んでるマンションかアパートがいい」って言ってたんだっけ。
今になって、ようやく気づいた。
同じマンションに住めば、職場にも通いやすくなる。
……なるほど、納得。
END