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『くねくね』の正体
『くねくね』の正体
鳳亭風流
ホラー都市伝説
2025年05月27日
公開日
904字
完結済
ねえ、 『くねくね』ってしってる?

『くねくね』の正体

連休明けの穏やかな田園風景。

梅雨を前にして、畑仕事に精をだす。

鳥が舞い、高らかに歌う声を聞きながら汗をぬぐう。

夏日になる日も少なくない。

お茶の時間にしよう。

そう思い周りに声をかけると、それぞれ腰を伸ばしたりしながらあぜ道に腰を下ろす。

「おーい」

すると、どこからともなく声が聞こえる。

あたりを見わたしてみるが、それらしい人はいない。

みな、思い思いにあぜ道に座ってお茶を飲んだり、お菓子を食べたりしている。

少なくとも『おーい』と遠くから声をかけるような人の姿は見当たらない。

気のせいかと思い、私もあぜ道に座り水筒の冷たいお茶を飲んだ。

そう言えば、連休中に遊びに来ていた孫たちが、都市伝説とかいう怪談を聞かせてくれた。

それによると、田んぼや畑に、人に似た白い影が見えたりするそうだ。

その白い影は、くねくねと踊るように見えるため『くねくね』と呼ばれるらしい。

そして『くねくね』を見続けたり、何かに気付いたりすると『連れて行かれる』そうだ。

今日は、そんな怪談には似つかわしくない晴天。

そもそも自分たちのほかに人影は無く、声だけなら、くだんの『くねくね』とは違うだろう。

それでも気になって立ち上がり、あたりを見回してみるが、やはりそれらしい姿は無い。

『何かに気付いたりすると連れて行かれる』という部分が気になるが、連れて行かれるにしても周りに人がいる。

みんなが休憩を切り上げ動き出すと、隣の田んぼのあぜ道で、不自然に動く背の高い草があることに気付いた。

もしやと思い、掛けていた【眼鏡】を手ぬぐいで拭き、じっと見続けた。

風も無いのに草が揺れている。

隣の田んぼも休憩を終え、耕運機のエンジンがかかると、更に激しく草が揺れる。

私は駆け出した。

気付いてしまったのだ。

手をバタバタと振り、大きな声をあげながら耕運機に向かって走る。

周りからは、気が触れたように見えたかもしれない。

だが気にも留めなかった。

「危ないだろう!」

耕運機の前に立ちはだかると、運転していた男性が怒鳴った。

私は息も絶え絶えに、少し先を指さした。

そこには、泥にまみれ、掴んだ草を激しく揺らす高齢者が倒れていた。

間一髪。

その高齢者が田んぼの肥料になるところだった。

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