連休明けの穏やかな田園風景。
梅雨を前にして、畑仕事に精をだす。
鳥が舞い、高らかに歌う声を聞きながら汗をぬぐう。
夏日になる日も少なくない。
お茶の時間にしよう。
そう思い周りに声をかけると、それぞれ腰を伸ばしたりしながらあぜ道に腰を下ろす。
「おーい」
すると、どこからともなく声が聞こえる。
あたりを見わたしてみるが、それらしい人はいない。
みな、思い思いにあぜ道に座ってお茶を飲んだり、お菓子を食べたりしている。
少なくとも『おーい』と遠くから声をかけるような人の姿は見当たらない。
気のせいかと思い、私もあぜ道に座り水筒の冷たいお茶を飲んだ。
そう言えば、連休中に遊びに来ていた孫たちが、都市伝説とかいう怪談を聞かせてくれた。
それによると、田んぼや畑に、人に似た白い影が見えたりするそうだ。
その白い影は、くねくねと踊るように見えるため『くねくね』と呼ばれるらしい。
そして『くねくね』を見続けたり、何かに気付いたりすると『連れて行かれる』そうだ。
今日は、そんな怪談には似つかわしくない晴天。
そもそも自分たちのほかに人影は無く、声だけなら、くだんの『くねくね』とは違うだろう。
それでも気になって立ち上がり、あたりを見回してみるが、やはりそれらしい姿は無い。
『何かに気付いたりすると連れて行かれる』という部分が気になるが、連れて行かれるにしても周りに人がいる。
みんなが休憩を切り上げ動き出すと、隣の田んぼのあぜ道で、不自然に動く背の高い草があることに気付いた。
もしやと思い、掛けていた【眼鏡】を手ぬぐいで拭き、じっと見続けた。
風も無いのに草が揺れている。
隣の田んぼも休憩を終え、耕運機のエンジンがかかると、更に激しく草が揺れる。
私は駆け出した。
気付いてしまったのだ。
手をバタバタと振り、大きな声をあげながら耕運機に向かって走る。
周りからは、気が触れたように見えたかもしれない。
だが気にも留めなかった。
「危ないだろう!」
耕運機の前に立ちはだかると、運転していた男性が怒鳴った。
私は息も絶え絶えに、少し先を指さした。
そこには、泥にまみれ、掴んだ草を激しく揺らす高齢者が倒れていた。
間一髪。
その高齢者が田んぼの肥料になるところだった。