202X年、関東のとある山中。
初夏の蒸し暑さが和らぐ午前2時、そこに2人の男女がいた。
「ねーぇ。マー君……やっぱりやめようよぉ……こういうのよくないって……!」
「だいじょーぶだって! どうせただの言い伝えなんだから! それよりほら! あそこに人影が!?」
「きゃーっ! って、ただの木じゃん! そういうのほんとーにやめてってば!」
「あははっ! ごめんごめん。でもさ、だいぶ雰囲気ヤバくなってねぇ? 流石は有名な心霊スポット……」
「ここマジでやばいんでしょ? ねーぇ、やっぱ帰ろうよ!」
『また来たよ……まぁ、今宵は暇だし、相手でもしてやるか』
「大丈夫だって。そだな、俺の調べではそれなりに信憑性のある言い伝えが……」
「何よ、それ……どこ情報?」
「ん? あぁ、ネット情報だけど……」
『ほーぅ、聞かせてもらおうか。お前の言う最新のネット情報とやらを』
「なんでも、ここらへんは昔ふもとの村で生まれた赤ん坊を、毎年その祠に捧げていたんだと。
しかも生贄にされたその赤ん坊たち、祠に祀られている悪霊から命を吸い取られて、たった一晩でガリガリに痩せて餓死してたんだとか……!」
『待て待て。10日だ! 10日間! あと俺、その赤ん坊たちに何もしてねぇって!』
「やめてってば! そういう怖い話……何も今やんなくていいじゃん!」
「まぁ、聞けってば。んで平安時代の頃に、その悪霊を抑えるために都から陰陽師が派遣されたんだけど、それすら敵わなかったらしい」
「ちょ、強くない? ねぇ、その悪霊強くない?」
「うん、とんでもない悪霊だったらしい」
『あっ、どうも。褒めてくれてありがとうございます。いやぁ、あれはおっそろしい戦いだったなぁ。若干事実と違うけど……』
「でも戦国時代になって、ふもとの村に生まれた勇敢な男がそれを鎮めたとか……だけどその男は代わりに正気を失って……それを恐れた村人たちから無残に殺されたとか」
『その話は止めろーォ! 俺の前でその話をするなァ!
あと、その男はある意味勇敢すぎて頭おかしくなったんだよ!
それと、処刑の理由は別ッ! あの時は、さやちゃんが何とか村まで逃げ切ってェ!』
「へーぇ。んじゃその男の人に感謝だね」
『するわけねーだろぉ!』
「うん。でもそれでも完全に封印することはできなかったんだ。今もこの山にはその悪霊の怨念が残っていて……」
「残っていて? なに?」
「ここでセックスしても、生まれてくるはずの赤ん坊は魂ごとくわれるんだと。だから避妊しなくても大丈夫だって!」
「えぇ? ちょ、マー君!? 急に胸触らないで。って、えぇーっ! ちょ、うそでしょ? こんなところで!?」
「まぁ、いいじゃねーか。たまにはこういうところで……しかもゴム付けなくてもいいらしいし!」
「ちょ……だ・め……ダメだってば! いやん。ちょ……んーん……」
『あ、ダメだ。こいつら、ここでおっぱじめるつもりだ……これ以上はR指定になるわ』
なので俺は体から邪気を放ち、このバカップルを覆う。
周囲に強風が吹き荒れ、ついでに雷雨も発生させておいた。
「え? ちょっ……雰囲気おかしくない?」
「あ、あぁ。そうだな。ってゆーか、これ……もしかして……ヤバい?」
「って、マー君! うそでしょ!? 置いてかないでぇ!」
『おいおい。男の方、女を置いて逃げ出したよ。マジか?』
……
……
『まぁ、いいか。この後あの2人がどうなろうと、俺の知ったこっちゃないしな。
女よ? その男、ろくな男じゃないから。せいぜい喧嘩するなり別れるなりしろよ?』
2人の気配が山のふもとまで無事に移動するのを確認し、俺は祠の中でくつろぐ。
ここで旧友の気配が祠の上にいることに気づいた。
『相変わらず大変じゃのう?』
『おぉ、権三郎さん。お久しぶりです』
『うむ、久しぶりじゃな。でもそんなことより……相変わらずあのような輩がひっきりなしに来るのか?』
『えぇ、でもあいつらを追い返すのもいい暇つぶしになりますし、なにより人間どもの信仰心が薄まったこの時代、邪神だろうが悪霊だろうがこうやって覚えていてもらえるのは助かりますので』
『うむ、それならばいいのだが』
『それで……権三郎さんも久しぶりですね。7年ぶりぐらい? ところで今日はどんな御用で?』
『あぁ、喜べ。やっと見つかったぞ?』
『何が?』
『おぬしの声を聞ける者じゃ。関西の方に有名な霊能力者がおってな。わしの声もしっかりと聞いておった。
これでおぬしの誤解も解けようぞ。地元の村人たちにおぬしの意見を伝えることができるのじゃ!』
『遅すぎます! 俺もう立派な祟り神! ここも心霊スポットになってますからぁ!』
終わり