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第4話

 彼は慣れた感じでローテーブルの椅子に腰かけた。私ももう一つの椅子にかける。気まずい思いで上目遣いに彼を見る。同時に観察してみる。

 緩めのウェーブを真ん中で分けた焦げ茶の髪。色は白くて、ほっそりしている。学者肌といったほうがいいようなたたずまい。さっきカウンセリングと言っていたけれど、それは本当かもしれない。そうか、資格証を見せてもらおう。

 私がそれを言いかけるのを察知したように、彼はカード入れから一枚差し出した。そこには彼の言った通り「applied psychologist」の文字とノア・エバンズという名前の表記がある。捏造でないなら本当だ。

 でも、もう一つ、彼は私の友人だと言った。私にはこんな友人はいない。

「私はあなたのことを知りません。それに、わざわざ家にまでカウンセラーをよこして欲しいと頼んだ覚えもないわ」

 毅然とした態度で彼を凝視する。彼はほとんど気がつかないくらいのわずかの口の動きで「またか」とつぶやいた。

「ジェシカ・クラーク。君は今回も友人の僕に、カウンセリングを頼んだという事実を忘れているんだね」

「私は、確かに物忘れが多いわ。でも、その分メモをしっかり取っている。その中にノア・エバンズと会う予定はなかった」

 私が憮然と答えても、彼は動じた様子もない。スマホをタップ・スクロールして、ある画面を私に見せた。私は息をのむ。

『ノア。金曜の仕事の後ならOK。場所はうちでいいかしら。いつもお邪魔するのも悪いし。美味しいものも用意しておくわね』

 確かにアイコンが私の顔写真だ。全く記憶にない。しかも、これまでは私が彼のところに行っていたということか。

「やれやれ。この分じゃ、美味しいものは今日はおあずけだな」

 彼はいたずらっぽく微笑んだ。

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