※こちらは性描写ありの物語です。
俺はごく普通のサラリーマンだ。
本当に、今までも驚くほど普通な生活を送ってきた。
普通のサラリーマン家庭に生まれ、頭も体力も普通。顔だって、多分“普通”な部類だと思う。
ただひとつ違うのは、好きになった相手が「男性」だということだ。だって、普通は女性を好きになるもんだろ? だから俺は、それ以外は普通だけど、そこだけは“普通”とは違う。
普通なら女性に惹かれるはずなのに、俺の場合はどうしても男性に目がいってしまう。完全に、男のことが好きなんだ。
初恋だって、相手は男の子だった。それだけは間違いない。
小さい頃、よく一緒に遊んでいた近所の男の子。小学校も同じで、特別に意識していたわけじゃなかったけど、中学に入って気づいた時には、いつもそいつのことを目で追っていた。
その男の子が校庭で体育の授業を受けているときは、教室の窓から見ていた。同じクラスになったときには、後ろの席からじっと見つめていたこともある。そういう青春時代の思い出がある。
普通なら、そういうふうになるのは女の子が多いと思う。でも、男だって、好きになった相手が男性なら、自然と乙女になるものなんだ。
よく「初恋は実らない」と言うけれど、やっぱり実らなかった。いや、正確に言うなら、あの頃の俺は世の中を少しだけ分かってしまっていて、もし告白なんかしたら「気持ち悪い」と思われて、友達関係すら壊れてしまうんじゃないかと怖かったんだ。だから、告白を諦めてしまった。
中学生になると、ごく一部の男女は恋人同士になって、手をつないだり、デートしたり、「もっと一緒にいたい」と親に怒られるほど夜遅くまで過ごしたりする。でも、それが恋人なんだから当たり前だろう。
でも、俺が好きになったのは同性。やっぱり、その年頃になると社会の仕組みや「普通」が見えてきて、同性に告白する勇気なんて出てこなかった。振られるのが怖かったのもあるけど、それ以上に、友達としての関係を壊したくなかった。
告白して関係が終わるくらいなら、告白せずに友達のままでいたい。そう思ってたんだと思う。
そうして、俺は将来の夢も特になく、学生生活を送っていたせいか、今もごく普通の生活を送っている。
朝起きて、満員電車に揺られ、時には足を踏まれながら都心の会社へ向かう。まぁ、俺もそこそこ都心に住んでいるけど、それでも電車を使わないと会社には行けない。
会社では普通に仕事をこなして、たまに同僚と飲みに行く程度。
本当に、毎日が平凡すぎて退屈なくらいだ。
だからといって、波乱万丈の人生や貧乏生活、お金持ちの豪華な暮らしを望んでるわけじゃない。ただ、平凡で平和な毎日が、あまりにも退屈すぎるんだ。
唯一の楽しみといえば、休みの日に一人で部屋にこもって、男性アイドルのDVDを見ること。
そう、俺は男が好きなんだから、憧れるのも男性。きっと世の女性たちと、心の中は同じ乙女なのかもしれない。
これが、俺の平凡な生活の中での唯一の楽しみなのかもしれない。
確かに、アイドルなんて一般人からしたら手の届かない存在だ。でも、だからこそ逆に、自由に憧れて、妄想して好きになってもいいと思う。
そして俺は男だから、そのアイドルを見て妄想して、一人でシてしまうことだってある。
……さすがに、それだけは誰にも言えない秘密だ。いや、バレても平気なのかもしれないけど、一般的に考えて、そんなこと聞いたら引かれるだろう。流石の俺も、そこまで嫌われるのはごめんだ。
だから、これは絶対に、自分だけの秘密。
――そんな平凡すぎる毎日を送っていた俺の生活に、まさか心臓がドキドキするような出来事が起こるなんて、思ってもみなかった。